【鬼滅の刃】ちゃんと聴かせて (ページ35)

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11. 南南東へページ35

雲雀の囀りが、辺り一面畑の広がる道まで届いた。
春らしく、畦道には若葉が芽吹いている。

太陽が南寄りになり、二つの短い影を西側に伸ばした。
土を踏む音と話し声が響く。

「＿＿＿トンボはね。ゆっくりした動きが苦手なんだよ。速い動きを察知するのは得意なんだけどね。」

梢は屈むと、縦に脈の入った葉の先に止まるトンボの前で、指をゆっくりと回してみる。

すると、見事に彼女の指先にトンボが止まり、炭治郎は「おぉ！」と歓声を上げた。

「眼が特殊なんだ。」と続ける彼女が、炭治郎には得意気な子供のように見えて何だか心が和んだ。

「複眼って言ってね。沢山目が集まってできていて、トンボは特に多いんだ。一万個以上あって………

…何で笑ってるの？」

梢は炭治郎の緩みきった頬を見て、喋る口を躊躇わせた。
炭治郎は、相変わらず人の良い笑顔で答える。

「あまりにも詳しく教えてくれるから、梢は本当に虫や動物が好きなんだなって…

……俺、誤解してたんだ。最初は梢の事、冷たい子だと思っていたから。

でも梢は本当は、生き物が好きな優しい子だよ。
観察力に長けてるから、周りの事をよく見てる。矢印の鬼と戦った時だって、俺が怯んでいたのに気付いて、真っ先に攻撃してくれただろう？それがなきゃ、今頃どうなってたか分からない。

誤解されやすいだけなんだ。梢は。だから、そうだな…

梢はそうやって好きな事を話している時が一番いいよ！」

梢は炭治郎のやまびこが聞こえるくらい大きな声にあっけらかんとする。
同時に、声にびっくりしたトンボもヒラヒラと飛んでいってしまった。

目を伏せて指先を見つめながら梢は呟く。

「別に…好きでもなんでもないんだけどな……」

炭治郎はそれに首を傾げて口を開くが、すぐにバサバサという羽音と甲高い声に掻き消される事になる。

「南南東ーッ！クッチャベッテナイデ！サッサト南南東ヘ向カエー！！」

「わああ…ごめんごめん！でもちょっと静かにしてくれ頼む…」

梢がそうやってあたふたする炭治郎を見ながら、立ち上がろうとした時だった。