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9-3 ページ32

珠世の菫色の瞳から、降り始めの雨のような涙が零れる。

炭治郎と梢は一瞬動きが止まった。


「あっ…!す、すみませんっ!!!禰豆子…ねず、禰豆子っ!はな…離れるんだ!失礼だからぁ!!」

炭治郎は冷や汗をダラダラかきながら、行き場の無い手を空中に彷徨わせる。

しかし、珠世は禰豆子の肩に顔を埋めて涙で震えた声で言う。


「ありがとう…禰豆子さん…ありがとう……」


何も言えずに、炭治郎と梢はそれを見た。

珠世の隣に居た愈史郎は、彼女がかつて人間だった自分に掛けた言葉を思い出した。

病に伏せ、間もなく命を落とすであろう人間だった自分を看病してくれた彼女。

人で無くなる事は、辛く悲しい。
それが彼女の本音だったのだろう。


「私たちはこの土地を去ります。」

珠世がそう言い、愈史郎は我に帰る。

鬼舞辻に近付き過ぎ、早く身を隠さなければ危険だと言う。
それに、医者として人と関わる彼女は時に勘づかれる事もあるのだと。


「炭治郎さん。禰豆子さんは私たちがお預かりしましょうか?」

突然の提案に、その場に居た三人は素っ頓狂な声を上げる。
戦いの場に連れて行くよりは、預かった方が安全だろうとの事だった。

その後ろで愈史郎は首を横にブンブンと振っていた。相当嫌なのだろう。


炭治郎は考え込む。
彼女の無事は兄の彼にとって何より大事だし、それが彼女のためになるなら願ったり叶ったりだ。


パシッ

炭治郎は左手に温もりを感じて、その方を向く。
そこには強く意志を持った禰豆子の目があった。

炭治郎はもう答えが出たように、微笑んで禰豆子の手を握り返す。



「珠世さん。お気遣い、ありがとうございます。…でも、俺たちは一緒に行きます。
離れ離れにはなりません。

(もう、二度と…)」

彼には、幸せそうな家族たちの姿が頭に浮かんだ。

珠世はそれを受け入れて笑みを浮かべる。


「分かりました。では、武運長久を祈ります。」

「じゃあな。俺たちは痕跡を消してから行く、お前らはさっさと行け。」

愈史郎はそっぽを向き、炭治郎はまた微笑む。


「はい。それでは、珠世さんも愈史郎さんもお元気で…!行こう…!」

炭治郎がそう言ったそばから禰豆子が階段を駆け上がる。
急いで彼女を追い掛けようとする炭治郎と、梢。

すると愈史郎が彼の名前を呼ぶ。


「…お前の妹は………美人だよ。」

満足そうに炭治郎は笑う。


「(家族、か……)」


梢は階段を駆け上って行った兄妹の後ろで、静かにそう思った。

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作者名:ほっぷすてっぷ | 作成日時:2024年1月5日 22時

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