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｢炭治郎さん、梢さん。この方は、十二鬼月ではありません。｣
珠世は唐突にそう言い出すと、地面に転がった黄色い眼球を指さす。
｢十二鬼月は、眼球に数字が刻まれていますが、この方にはない。恐らくもう一方も、十二鬼月では無いでしょう。
弱すぎる。｣
それを聞いた炭治郎と梢は珠世の言葉を疑った。
｢えっ、弱すぎる…？｣
｢あれで…｣
｢珠世様が仰るのだから間違いない。…しかし、頭の悪い鬼も居たもんだな。珠世様の体を傷つけたんだ…当然の報いだが。」
愈史郎は嘲るような笑みを浮かべて、朱紗丸の骸をみくだす。
珠世は落ちていた朱紗丸の腕に注射器を刺すと、その血を抜き取る。
｢この血が、治療薬を作るための手がかりになると良いのですが…」
注射器を木製の箱に仕舞ってサッと立ち上がると、眠る禰豆子の方を見る。
「私は禰豆子さんを診ます。薬を使った上に、術も吸わせてしまったので…ごめんなさいね。」
そう言い残して珠世は屋内へ向かう。
愈史郎は炭治郎たちを置いて、焦ったように後を追った。
炭治郎は暫く座り込んでいたが、何かに気付いたように顔を上げる。
それは、か細い幼女のような声だった。
鞠、と何度か呟いていた。
炭治郎は梢の肩から抜け出して、膝で立ちながら橙色の着物の方へ寄った。
彼が鞠をその傍に置くと、チリンと鈴が一回鳴った。
遊ぼ。
まだ齢幾許かの子供が、親にそう言うかのように。
すると、明るみ初めていた東の空から明かりが差す。
残った朱紗丸の体は、血液一滴すら残さず日に焼かれて消える。
炭治郎は覆っていた手を外して、また傷付いたような顔を見せて鞠を見つめる。
梢は風穴のように空いた耳元をそっと触った。
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作者名：ほっぷすてっぷ | 作成日時：2024年1月5日 22時
