春の病 3 (ページ41)

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夜公演の開演前。柚宇ちゃんと横浜アリーナ内にあるSixTONESさんの楽屋に向かって歩きながら、他愛もない話をする。

「涼介くんには言ったの？」
「うん。涼介くんの家に置いてたお泊まりセットをそのまま北斗くんの家に持って行ったからその時に言ったよ」

　その言葉を聞いて、私の少し前を歩いていた柚宇ちゃんは手首を握る力を強めた。何故だか圧のある笑みで振り返って、彼女は言った。
　

「じゃあ、他のメンバーにも言えるよね？大我くんには言ってるんだしさ」
「いや…京本大我は幼馴染じゃん？」
「こういう時だけ“幼馴染”なんだ」
　

　何も答えられない私に、柚宇ちゃんがまた前を向いた。
　忙しなく動くスタッフさんたちは私たちを見る度に会釈をする。

「…怖いの？」

　ヒュっと喉がなった。
　そんなことなんてなかったように、努めて冷静に私は宣う。

「なんの事？」

　ここに来る途中、会場前に並ぶファンの人たちを見て、急に現実に引き戻されたような感覚がした。
　熱に浮かされたような4ヶ月間、すっかり忘れていた、当たり前すぎる大前提。
　
　そうだ。彼はジャニーズだ。
　アイドル、なのだ。

　もう十数年も芸能界にいる。
　アイドルとの熱愛報道が出たらどうなるかなんて知ってる。大きすぎる批判の声に潰される人も見てきた。
　あそこに並んでいた人が、いや、SixTONESのライブ見たいな、って応募した人たちの数がそのまま、バレた時に私を批判する人の数だ。

　…それは、なんて恐ろしいことだろう。
　