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日付が変わる3分前に、チャイムがなった。合鍵は渡してあるのに変なの、と思いながら、玄関を開けると当然、北斗くんがいた。
茶髪になっている北斗くんにまず驚いて、仲間由紀恵さんと共演するのだと話していたことを思い出した。役作りなのだろう。
「茶髪になってる」
「んふ、どう？驚いた？」
「うん…茶髪もかっこいいね」
北斗くんが玄関に入った瞬間広がった香りには気づかない振りをして、会話を続ける。
北斗くんは玄関から上がろうとしない。私はそれを咎めない。チラチラと北斗くんが玄関に置いてある時計を見て、私はやはり意図が掴めない。
「…こんな夜遅くにどうしたの？」
「迷惑だった？」
「んーん、会えて嬉しいけど…」
「けど？」
優しい瞳と目が合う。喋って、って促すみたいに後ろに回ってない方の手が私の手を握るから、私は話した。
北斗くんが載ってる雑誌を読んだこと。
その雑誌で深夜彼女から電話がかかっても「お仕事だから…」と会いには行かないと答えていたこと。
北斗くんが明日仕事があるって知ってること。
「…だから、なんでかなって」
話している間に、視線はどんどん下に降りていた。素直に会いに来てくれたことを喜べばいいのに、どうもそうはいかない。めんどくさい人間なのだ。私は。
「氷織ちゃん」
「はい」
繋いでいた手が引っ張られて、顔をあげる。
「何度も言うようだけどさ、俺も氷織ちゃんもこういう仕事してるから、色々制約は多いし、スケジュール合わせんのも難しいけどさ」
「うん」
「それらが許す限りでは、色んなことしたいのよ」
「うん」
「だから…」
繋いでいた手が離されて、後ろに回されていた腕がこちらに差し出される。
「21歳のお誕生日おめでとう、氷織ちゃん」
6本の赤い薔薇に目が奪われる。
北斗くんの言葉で、それまでの全てに得心がいった。
「あぁ、誕生日か」
「え？まさかあなた自分の誕生日覚えてなかったの！？」
玄関に入った瞬間、薔薇の匂いが広かったけど、それを彼に贈られる理由が思い当たらなくて不思議だったのだ。
「うん。だから、なんで薔薇持ってるのかな、って」
「流石に薔薇の匂いはバレるよね…」
サプライズっぽくしてみたかったんだけど…と気落ちした様子をみせる北斗くんだったけど、私からしたら十分にサプライズだった。誕生日を覚えていなかったのだから。
「ありがとう。嬉しい」
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作者名：綴 | 作成日時：2023年1月22日 14時
