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「…忘れてないんだよね」
「覚えてるよ」
「じゃあ、呼んでよ」
肩に顎を乗せて、氷織さんが口を開くのを待つ。視界に広がるのはいつもと同じただの部屋の筈なのに、なぜだか特別なもののように思える。
「…北斗、くん」
「んふ。もう1回」
「北斗くん」
少し体を離すと頬を赤く染めた氷織さんと目があって、恥ずかしそうに逸らされる。キュッと背中側に回った手が服を掴む感覚がする。
「…もう1回」
「北斗くん」
太っている訳では無いのにもちもちとしている頬に手を添えて唇を重ねる。
「もっかい」
「ほく、んっ」
可愛い。
薄らと色づいた頬も。水分量の多くなった瞳も。ほんの少し平時より甘くなっている声も。全部。
今日はもう少し進んでもいいかな。
「口、開けて」
「…こぉ？」
「ん、噛まないでね」
小さく開けられた口に舌をいれる。
奥に逃げようとした小さな舌を捕らえて、吸って、歯列をなぞる。嬌声が口の中に籠って消えていく。
トントンと軽く叩かれて唇を離すと、はぁはぁと息を整えようとしている氷織さんは扇情的で。
「ほく、と、くん」
「鼻で息するんだよ」
「んっ、……っ」
「…そぉ、上手だね」
腰が抜けちゃった氷織さんをソファじゃなくて俺に凭れさせて、頬や髪を撫でる。
「なに、あれ」
「大人のキスだよ」
「おとなの、きす」
キスの影響か、舌っ足らずな氷織さんは眠そうだ。
俺の胸元に擦り寄って、うとうとと瞼は上がったり下がったりを繰り返す。
「眠い？氷織さん」
「んーやだ」
「寝ときなよ、風呂入ったら行くから。ね？」
一層体を擦り寄せてきた氷織さんの顔を覗き込むと、不貞腐れたような表情と目が合った。
「やだ」
「え？」
「氷織さん、ってやだ」
職場の人みたい。と言って俺の胸元に完全に顔を埋めた氷織さんがーー否、氷織ちゃんがあまりに可愛くて、頬が緩む。
「氷織ちゃんでいい？」
「…うん」
満足したのか氷織さんはすぐに眠ってしまった。
はすみづのオールナイトニッポン→←いつか君の声を思い出せなくなるその日まで
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作者名：綴 | 作成日時：2023年1月22日 14時
