春の病 3 (ページ29)

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後ろは壁。前には松村くん。ふかふかのベットと背中に回された松村くんの腕。まるで閉じ込めるようなポジショニングだけど、全く不満は無かった。特に不自由もない。

「私ね、松村くんに告白する気なかったの」
「…なぁんでそんな事言うの」

　また肩に埋まったふわふわした頭を撫でて内緒話をするみたいに囁く。
　ジリジリと叶わない想いに身を焦がして、それでいいと思っていた。それ以外にも私にはあるから。

「だから、ああいうこと言ってただけで、松村くん置いて死ぬ気はないよ」

　演技の才能に恵まれて、演技を中心にした私の人生の最高到達点でもし心臓が止まったとしても、問題ない。
　松村くんが隣にいてくれるなら、なんの問題もない。

「俺さ」
「うん」

　暗闇の中でもお互いの顔が見えるほど近づいて、松村くんの瞳か私を射抜く。

「氷織さんが死んだら、追いかけるからね」
「えぇ？」

　驚いたような自分の声があまりに白々しくて内心、笑ってしまう。
　私だって追いかける。松村くんがいなくなるなんて考えたくもない。

「重いと思った？」
「ううん。全く」

　むしろ嬉しい。

　それを伝えるみたいに松村くんの首に腕を回して、抱きつく。壁にかけられたマフラーが肩越しにぼんやりと見えた。

　あの冬に生まれた心臓は、最初から病を患っていた。
　恐ろしい病だ。愛おしい病でもある。

「一生離さないからね、氷織さん」
「うん。大好きだよ」