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暫く氷織さんを抱きしめていたら、泣き止んだ彼女は照れたように「ありがとう」と言った。
キスは嬉しいとか、目の前で泣いちゃったこととか、多分今更恥ずかしがってるんだろうなぁ。
そういうところも可愛い。
あんまり女の子を「可愛い」という簡単な言葉で表現したくないんだけど、そんなこだわりを飛び越えてしまう程に氷織さんは可愛い。
「今、『かぐや様』の撮影してて、平行で『ケイコ 目を澄ませて』が始まりそう。その2つが終わったら『母性』で、体重落として『余命10年』の残りの撮影かなぁ」
今は氷織さんを足の間に座らせて、後ろから抱きしめながら他愛もない話ついでにスケジュールを聞いてみた。付き合ってるし、次いつ会えるのか知りたいし。
全く情報解禁されていない作品の話が何個か出たけど、多分信用してくれているのだろう。
「6月までの予定はこんな感じかな」
ケロリ、とした顔でそういった氷織さんだったけど、正直いってそのスケジュールは異常だと思った。
「え、それ体休める機会ある？忙しい過ぎない？」
「？私はこれくらいが普通だよ」
何を言っているのか分からない、みたいなキョトンとした表情にいつかの会話を思い出した。
ーー「私、演技してる時が一番幸せなんです」
ーー「私は死ぬまでお芝居をしていたい」
そうだ。その時、危うい、と思ったんだった。
言いたくないなら仕方ないけど、やっぱり何で悩んでいたのかは気になっちゃうし。
幾ら本人が楽しそうでも働き詰めだと心配しちゃうし。
会えない日が多いだろうから寂しいし。
ぎゅっと氷織さんを抱きしめる腕に力を込めて、ゆるやかな体温を閉じ込めた。
「…そっかそっか。心配だからいっぱい連絡するね」
「ふふふ。うん」
他の人よりは知ってるかもだけど、付き合い出しても知らないことはきっといっぱい出てくる。
その全部を知っていきたい。
ーー「北斗くんといる時が1番幸せ」
そしていつか、そう言ってくれる日が来るといいな、と思った。
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作者名：綴 | 作成日時：2023年1月22日 14時
