春の病 3 (ページ13)

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氷織さんが繋いでた手を解いて、俺の背中に回してぎゅっと抱きついてきた。

「ずっとこうしてみたかったんだぁ」

　そう言って笑って見上げられた時、割と本気で死を覚悟した。
　
「あー、氷織さん」
「ん、なに？」

　俺の胸板に額を押し付けるみたいにグリグリとすり寄ってきていた氷織さんのペースを少し崩したいなぁ、と思って。いや、もちろん単純にしたいっていうのもあるんだけど。

「キス、していい？」
「へ、あ、えと」

　俺の背中に回された腕が少し緩んで、隙間ができる。氷織さんの顔を隠すマスクを顎へずらすと、同じように自分のものもずらす。
　
　マスクをズラしたことで外気と顔が触れ合って寒くなったのか、氷織さんはギュッと瞼を下ろした。
　それをいいことに彼女の頬に手を添えて、唇を重ねた。
　触れるだけのキス。
　それだけで、彼女がどれだけ動揺するのか俺は知っている。
　
「ちょっ、松村くん！こ、ここ外だからね！？」
「ふふふ、氷織さんかぁいいね」

　顔を真っ赤に染めて怒っても全く怖くない。可愛いしか出てこない。
　もう一度口付けると、氷織さんは音にならない声を上げて俺の胸元に顔を埋めた。唇を隠すつもりらしい。

「……松村くんの、ばか」

　それに少し煽られて、氷織さんにキスしたのは言うまでもないだろう。

「松村くん！」
「氷織さんが煽ったのが悪いんだよ」