―ＨＡＮＤ―１▼０２ (ページ12)

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音が聞こえはじめた時には、救急車のサイレンが鳴り響いていた。

きっと通行人の誰かが呼んだのだろう。私がこんな状態だから。

ーー多量に血が出ている！誰か出血を！

ーーピーポーピーポー

ーーああ、救急車が来たみたいだ！

こんな時でも、自然と階名表記と音名に聞き分けてしまう。

ーーピーポーピーポー

音が聞こえないように耳をふさいでも指の隙間から音が漏れ、その行為が何の意味もない事だと思い知らされる。

ーーなんだ、何かあったのか？

やめて、…やめて！

ーーピーポーピーポー

ーーやだぁ何があったの？

やめろ、…やめろ！

聞きたくない、…聞きたくない！

ーーピーポーピーポー

ーー人身事故かしら？

お願いだから、

……この世から音を無くして。

声にもならない言葉を心の中で叫び続けた。

誰にも聞こえることのない私の叫び。そんな私の横を通り過ぎる通行人が野次馬のように、私の目の前の出来事を何事かと見に来ていた。

中には残業終わりのサラリーマン。子連れのお母さんや、買い物袋を片手に持った主婦。それに、高校生やおばあちゃんおじいちゃんまで。

そして、出来事を確認した人達は、興味津々で寄ってきた時と打って変わり、顔を顰め(しか)、「お気の毒」と言う同情の言葉を残して去っていく。

人間の汚い部分を垣間見た気がした。

何をするわけでもなく、見物しに来て見終わったら同情の一言と人間の醜さを残して去っていく。

私は、大切なモノを失ったと同時に、あるものが見えた。

人の薄情な部分

嫌でも音を聞き分けてしまう能力を持つ''私''。

そんな''私''もその人達と変わりない。
音に捕らわれてしまい、音に集中してしまっていた。

横たわる彼の傍に寄ることもなく、手助けることもなく。彼を1人にさせてしまった何も出来ない、人なのだから。
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