―ＨＡＮＤ―１▼０２ (ページ11)

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一度姿勢を立ち直し、深く深呼吸をし瞼をゆっくりと閉じた。そして、この18年間を振り返ろうとする。

『……！』

だけど、すぐ瞼を開けてしまう。

その理由はわかっている。

過去を振り返るとあの時の光景が脳裏にハッキリと鮮明に浮かび上がってくるんだ。

いや、振り返らなくても思い出そうとしなくても、嫌でも浮かび上がってくる。常に私の後ろに隠れているから。

でも、

『これじゃあダメなんだ。』

向き合う怖さに怯え、いつからか向き合うことを避けてきた。また、いつからか向き合わなくてもいいんじゃないかとも思い始めた。

鈴原Aという一人の人間はもう既に出来上がっていたと思い込んでいたから。

でも、ダメなんだ。

手を掴むには、課題を見つけるには。

まだ鈴原Aは完成していない。今はまだ途中経路にすぎないのだから。

『私は私を超えるんだ…』

膝の上にある手をギュッと握りもう一度ゆっくりと目を閉じる。そうすると、ジワジワとあの日の光景が広がっていった……

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横断歩道を挟み、私の反対側にいる男性。

満面の笑みを浮かべ両腕をブンブン振って、信号が変わるのを今か今かと待っている。

ザーザーと雨が降っている中、彼の周りは晴れているように見えた。

私も小さく彼に手を振り返して、この気持ちが溢れださないように平然を保っていた。

そして、信号機は赤から青へと変わり、

「A～…ッ、………え？」

キィー、…ドンッ！

一瞬にして何かが起こった。
目の前にいたはずの人は数メートル高く空を飛び無様に地に叩きつけられた。

本当に一瞬すぎて、何が起こったのか状況が理解できなかった。

「男の子が轢(ひ)かれたぞッ！」

私よりいち早く状況を呑み込めた人がそう叫んだ。

……そうなんだ。

彼の言葉にようやく理解ができた私は、そこから私からすべての音が消え去った。

周りの人の声も雨が傘にあたり弾ける音も車のクラクションも、街中から聞こえてくる全ての音が聞こえなくなった。ただ呆然として目に映る光景の一点を眺めていただけ。涙なのか雨なのか、一つの雫が頬を伝っていた。

息をしているのに、息をしてないみたいですごく苦しくなった。

上を向いたら息を吸い込めると思って空を見上げたら、分厚い雲に覆われていて光が差し込む事さえ許していないようだった。

もう既に、この時から私の世界には光が存在しなかったのかもしれない。
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