07:「未練たらたらエース」 ページ8
「おめでとう」
スナ君がボールを追い掛けているのを眺めながら、治君が隣でぐっと親指を立てた。
午前の部は終了し、今は昼食を挟んで午後の部である。
サッカーの準決勝、バレーの三位決定戦、そしてこのサッカーの決勝戦が終わればいよいよバレーの決勝戦。我らが二年一組は驚くべきダークホースとして決勝に残った。
そして相手取るのは最初の予定通り、二年二組。
見事二年同士の勝負と相成る。
「ありがとう。まぁ、私はアドバイスしかしてないけどね」
「ほんまやなぁ。出たらええのに」
夏の初めの風が、フェンスに凭れてグラウンドを見る私の鼻先を掠めた。
「……出ないよ。中途半端でしょ、私が決勝だけ出たら」
「いーや。そういう問題や無いやろ」
「え?」
治君の指先が私の旋毛をぐりぐりと押す。せっかくユカリちゃんにセットしてもらった髪が崩れてしまう、とムッとして見上げればいきなりおでこをピン!と弾かれた。
「ビビんなや」
「なッ!?」
ずずい、とムッとした顔が近付いてくるので、思わず後ずさるとフェンスがガシャン!と揺れる。
「今更やん。俺ら皆Aちゃんがバレー出来るん知っとるし。俺やツムからしたら、一歩引いて見よるだけのAちゃんの方がよっぽど中途半端や」
「だけど」
「だけど?」
「……一回あのコートに立ったら、せっかくバレー選手じゃなくなったのに、また戻りたくなる気がする」
「アホ」
治君の手が、私のほっぺをむぎゅ、と摘まんだ。
乾いた手がびよーん、と頬を引っ張る。
「義仲Aは、バレーに未練たらったらのマネやから強いんやろ」
「……そへっへおはひふはひ?」
「なんもおかしないわ」
あんなぁ、と治君は私を見下ろした。
「獣みたいにバレーに飢えとるから、選手の事が誰より分かっとる」
「……なにそれ」
「正直、Aちゃんの肩がどれぐらい悪いんか知らんけど……バレー出来る奴が憎く思えるぐらいに、バレーを愛しとる奴のプレーは見て見たいしなぁ」
肩の力を抜く。私は、息を深く吐いた。
完敗だ。的確に私の弱みを撃ち抜いた言葉に、顔を覆った。
「まるで告白だ」
「告白?」
こっちの話、と知らず壁ドンの姿勢になっていた治君の腕を押しのけて一歩前に出る。
伸びをすれば、サポーターを付けた左肩の調子は悪くない。
試合に出るか出ないかは置いておくとして。
「ありがと、治君」
その小さな言葉に治君は少しだけ、笑った。
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藤浪(プロフ) - akneさん» 2回目のコメントありがとうございます!!笑!テンションが上がったようでなによりです!臣くんは書いていてとっても楽しいので、ちょくちょく出てきてもらいたいなと思ったり……!更新頑張りますね〜!! (2021年5月6日 19時) (レス) id: 0698c9c155 (このIDを非表示/違反報告)
akne(プロフ) - 2回目のコメント失礼します!臣くんきたーーーーー!!臣くんの登場によりテンションが上がっております!好きです!更新頑張ってください! (2021年5月6日 0時) (レス) id: b4edb87e83 (このIDを非表示/違反報告)
藤浪(プロフ) - コメントありがとうございます!面白くて大好きだなんて……はい!楽しんで更新して参りますので、どうぞよろしくお願いします!! (2021年5月4日 7時) (レス) id: a6c7f148a0 (このIDを非表示/違反報告)
umisorako - この作品面白くて大好きです!続き楽しみです (2021年5月3日 11時) (レス) id: 7e05f36517 (このIDを非表示/違反報告)
藤浪(プロフ) - akneさん» 嬉しいコメントをありがとうございます!嬉しくてニヤニヤしております(笑)若利君を語るならば、臣くんは外せませんよね……!ぜひぜひ今後の展開をお楽しみに!更新頑張ります〜! (2021年5月2日 16時) (レス) id: 0698c9c155 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤浪 | 作成日時:2021年5月1日 22時