29:「改善、追加、修正」 ページ34
掃除を終えて昼休憩の間、一応部外者の私はこっそり体育館裏で涼んでいたのだが、どこからどう居場所を知ったのか「ヨシナカさん!」と駆け寄って来る少年がいた。
この少年、どうにも向上心が強いらしい。否、強いと言うか、飢えていると言うか。治君がもしこの子を見たら『ツムとAちゃんの仲間やな』とでも言いそうな感じがする。つまり、同類。要はバレー馬鹿。
「元気だね」
「っす!元気です!」
そりゃあ良いね、と私は口を笑みの形に歪めた。
未だにバレーを楽しんでいる奴が、高みを目指せる奴が憎いと思う気持ちは消えないが、この子のバレーを見てみたい、と思う自分がいるのは確かで。
そんな複雑な心境で口を開く。
「日向君はMBだったっけ」
「はい」
意外って、よく言われるんですけど。と呟くその横顔に、もしや私の顔で委縮させてしまったのか、と慌てて付け足す。
「いや、意外とかじゃなくってさ。強いなー、と思って」
言っちゃあ何だが、私の身長ですら女子バレーでは低い方だ。上には上がいて、高身長になればなるほど確かに有利な点は増える。
だが昔、ワカちゃんは私に「恵まれている」と言った。「努力できる人間は、それだけで強い」とも。
日々のロードワークにしろ、筋トレにしろ、恵まれなかった者は恵まれた者を凌駕するための努力が必要になる。その努力を越えて武器を身に着けた者はきっと、恵まれていても努力しない人間よりずっと強いはずだ。
「戦い方を模索できるのも、強さだよ」
「……ヨシナカさんは新しい事を身に付ける時、どうやってましたか」
目を閉じた。
「私は……改善、追加、修正って感覚だったかな」
滅茶苦茶焦るよね、現状で勝てないって時。じゃあどうしたらいい?なにをやったらいい?って悩むし。と呟けば、そうなんですよね、と日向君が頷いた。
「だからこそ、まずは自分を観察する!」
「自分を?」
「今までの自分のやり方の改善できるとこを探していく。改善しながら追加していく。追加して、その都度修正していく……その繰り返しじゃないかな」
答えになってるかな。日向君の方を見れば、うん、ともすん、とも言わず、真剣な顔で考え込んでいる。これは良い事を言っちゃった感じ?とにやにやしていれば、突然勢いよく立ち上がった。
「俺、やってみます!!」
「うん。きっと出来るよ」
頑張れ若人、頑張れバレー馬鹿。頷いていると、唐突にポケットに突っ込んだ携帯が振動した。
975人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
藤浪(プロフ) - akneさん» 2回目のコメントありがとうございます!!笑!テンションが上がったようでなによりです!臣くんは書いていてとっても楽しいので、ちょくちょく出てきてもらいたいなと思ったり……!更新頑張りますね〜!! (2021年5月6日 19時) (レス) id: 0698c9c155 (このIDを非表示/違反報告)
akne(プロフ) - 2回目のコメント失礼します!臣くんきたーーーーー!!臣くんの登場によりテンションが上がっております!好きです!更新頑張ってください! (2021年5月6日 0時) (レス) id: b4edb87e83 (このIDを非表示/違反報告)
藤浪(プロフ) - コメントありがとうございます!面白くて大好きだなんて……はい!楽しんで更新して参りますので、どうぞよろしくお願いします!! (2021年5月4日 7時) (レス) id: a6c7f148a0 (このIDを非表示/違反報告)
umisorako - この作品面白くて大好きです!続き楽しみです (2021年5月3日 11時) (レス) id: 7e05f36517 (このIDを非表示/違反報告)
藤浪(プロフ) - akneさん» 嬉しいコメントをありがとうございます!嬉しくてニヤニヤしております(笑)若利君を語るならば、臣くんは外せませんよね……!ぜひぜひ今後の展開をお楽しみに!更新頑張ります〜! (2021年5月2日 16時) (レス) id: 0698c9c155 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:藤浪 | 作成日時:2021年5月1日 22時