12【にっこり】 ページ14
異形だ。
私は銀髪の少年を抱えたままに本殿の前の広場を走り回る。牛が突然方向転換できないのと同じで、この呪霊とやらもターンは苦手らしい。
「えーっと、名前は！？君！」
「おさむ！」
「治はアレの倒し方知ってるの？」
「おん、知っとる」
ひし、と私にしがみついた治がうるるんとした瞳で見上げてくる。
「サクサの名前」
「え？」
あ、ヤバい。ローファーの先が砂利に引っ掛かって派手に転がる。背後にジリジリと迫ってくる異形を感じた。
「サクサの名前を俺に教えてや」
ごろりと転がって態勢を立て直すと、私から突然体を離した治がこれまた唐突に視線を合わせて来る。地面に転がってる私の顔を見下ろしながら、小さな右手の人差し指をとん、と額の中心に突き付けて来た。
「名前って、下の名前？」
「名前を交わすことで、俺とサクサの間に縛りを結ぶんや。この縛りは、俺の力をサクサに貸す代わりに、サクサの命を俺に縛り付けることで成立すんねん」
「まてまてまって、待って！」
思わず叫ぶ。
「命を？縛り付ける？具体的には！？」
「サクサが死んだらそん時は、その体全部もらうっちゅーはなしや」
「私の体を？」
「死んでもサクサの女の体やから、使い道はぎょーさんある」
「おいおいおいおいおい」
「別に生きとる間に害があるわけやなし、ここはサクッと縛り結んでどうにかした方がええんと違う？」
「サクッととかそういう問題じゃ無いと思うんだけど！？」
じりじりと近付く呪霊。そんな事お構いなしに叫べば、治は「えー」と呟いた。
「せやけど死ぬで、今どうにかせな」
……目の前の死と死後。それらを天秤に賭けるならば、選ぶのは勿論目の前の死の回避だ。避けられる運命であるのならば、自分の死んだ後なんぞ知ったこっちゃない。
と、言いたいのは山々だが、北さんに言われた言葉が脳裏を過る。
『もし、あの双子に「契約」だの「縛り」だの言われても無視せなあかんで。見た目はちんまくてフワフワで可愛くても、アレに魅入られたらサクサの人生狂ってまうからな』
それでも、と観念して溜息を吐く。
縛り、と言うからにはそれなりのリスクとかいろいろあるんだろう。それよりこの子達が連呼する『サクサ』に何の意味があるのか。どうか、クーリングオフ制度使えますように、と祈りながら私は口を開いた。
「……私の名前は、佐久早……A」
治が私の眼を見て、初めてにっこりと笑った。
【にっこり】
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 161人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
藤浪(プロフ) - merisuさん» 初めまして！とても面白いだなんて……ありがとうございます！ぼちぼち書いていきますので、どうぞのんびり更新をお待ちください……！ (2021年8月20日 20時) (
レス) id: a6c7f148a0 (このIDを非表示/違反報告)
バボ - はじめまして！！一気読みしました！！いやぁ、侑君と治君めちゃくちゃかっこいいし、可愛いですね！とても面白かったです！！続き待ってます。頑張ってください！ (2021年8月19日 22時) (レス) id: f5aeefa10b (このIDを非表示/違反報告)
merisu(プロフ) - はじめまして。とても面白い作品をありがとうございます！！続きを楽しみに待っています(^^)更新頑張ってください！！ (2021年8月19日 19時) (レス) id: bbb64c35b8 (このIDを非表示/違反報告)
藤浪(プロフ) - mioさん» はじめまして！嬉しいお言葉、ありがとうございます。もふもふいいですよね、もふもふ……。聖臣くんを書くのもとても楽しみなので、のんびりご覧いただければ幸いです！！ (2021年8月8日 6時) (レス) id: 0698c9c155 (このIDを非表示/違反報告)
mio(プロフ) - 初めまして。とても面白かったです！もふもふ触りたい……。聖臣くん登場するのも楽しみにしております (2021年8月6日 20時) (レス) id: e44c41366c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：藤浪 | 作成日時：2021年4月28日 22時
