第十話 ページ10
一週間後、同じ酒場で落ち合うと、Aは私をある洋館の一室へと連れて行った。
「………ここなら、誰も使っておりません」
「掃除がしてあるのだな」
「はい、ひと月に二回程、催し事を行う際に使われる施設なので」
次々と鍵を開けて進むA。腕に、畳まれた大きな黒い布を抱えているが、それ以外は清楚な娘の装いをしている。
私が部屋の中で入ると、内側から扉を施錠しこちらを見た。
ごく普通の娘。しかし、其の身に流れているのは鬼を狂わす忘憂の物……いや、百薬の長なのだ。
「…………巌勝さん」
小さな声で、私を人間だった頃の名で呼ぶ。
適当な偽名でも考えた方がよかっただろうか。
「……何だ、A」
今思えばこの娘、体格が妻に似ている様な気がする。
顔も、名前ですらも覚えておらぬが。
人間は脆いので、出来る限り優しく抱き寄せる。
一週間経っても治りきらない傷口から、強い血の香りがしていた。
思わず、腕に力が入る。すると、Aも私の背中に手を回し、ぎゅっとしがみついてきた。
「貴方は………一体何者なの?」
何者、か_______。
私自身、時に自分の存在の実態がよくわからなくなる事がある。
何の為に生まれてきたのか。
何の為に、長く生き続けているのか。
「私は______」
そこまで自身に尋ねれば、答えを直ぐに思い出す。
勝つ為に、俺は生まれてきたのだ。
あの化け物を………、神々の寵愛を一身に受けた者を
超える為……鬼となって生き続けているのだ!!
俺はもう、二度と敗北しない____!!
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光 - 作者様の前作から来ました!控えめに言って最高です。好き。更新頑張って下さい!応援してます! (2020年11月9日 21時) (レス) id: 41175d901c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤葛 | 作成日時:2020年7月13日 4時