第二話 ページ2
娘の名前は、Aというらしい。
「どなたか話し相手が欲しかったので……ありがとうございます。このお酒、とっても美味しいです!
失礼ですが、貴方のお名前を教えていただいても……よろしいですか?」
「………私の名は、巌勝だ」
「巌勝さん……。素敵なお名前でいらっしゃるのですね」
娘は余程嬉しかったのか、私が殆ど喋らずとも、その高く透き通った声でいろんな事を話した。
夢や憧れている世界と、現実は違うという事。家の中では、どうも居心地が悪いという事。結婚に憧れはあるが、自分で相手を見つけたいのだという事。
娘は意外と頭の回転が早く、私が適当に相槌をうっていると、だんだん質問をしてくるようになった。
それも自然に様々な事を訊いてくるので、その都度いちいち嘘をつかなければならない。
あのお方は長いこと愉しめるようにと、この早い時間から出歩く事にされたのだろうが……。
これでは埒が明かぬ。
稀血とはいえ、この娘一人に時間をかける位ならば私は鍛錬でもしていたい。
この擬態も洋装も、しょっちゅうする事ではないのであまり長くは持たないのだ。
私が間を見計らって席を外しかけると、娘は勘違いしたのか硝子の灰皿をこちらへ差し出した。
「どうぞ、お気遣いなさらないで」
「……ありがとう」
短く礼を言い立ち去ると、娘は何も言わずに微笑んだ。齢の割には賢く、機転も利く。
この稀血の娘、もしや使えるやもしれぬ。……まぁ、考えてはおこう。
62人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
光 - 作者様の前作から来ました!控えめに言って最高です。好き。更新頑張って下さい!応援してます! (2020年11月9日 21時) (レス) id: 41175d901c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:藤葛 | 作成日時:2020年7月13日 4時