第一話 ページ1
稀血の香りがしている。
あのお方に連れられ歩いた繁華街で、それは一際強く匂い立っていた。
………女か。
「どうだ黒死牟。お前になら譲ってやっても良いぞ」
道行く人間を品定めしながら、あのお方は仰った。
「本当によろしいのですか」
「あぁ、私は適当に数を狩る。なぁに、気にする事は無い。こうして街を歩くのは久しいだろう、偶には女を口説く文句の勉強でもして来たらどうだ」
軽い冗談のおつもりだろうが、あのお方も相当久しく遊んでいらっしゃらなかった様だ。今夜は羽目を外しそこら中の女を食い散らかして愉しまれるのだろう。
主人を見送ってから匂いの元を辿り、私は細い路地の奥へと進んでいった。
そこには『はいから』な酒場があり、件の女はひとり隅の方の席で頬杖をついていた。
二席ほど間を開けて、座る。まだ時間が早いからか、客はさほど多くなかった。
様子を盗み見るに、まだ年若い娘だ。あまり、こういった場の雰囲気には慣れていないのであろう。何処か落ち着かない気持ちが滲み出て見えた。
自分の飲み物を頼み、店主に軽いものはあるかと尋ねてみる。
女に人気があるというものを、その娘の処に出してもらった。
娘は、それに気付くや否や、ばぁっと顔を輝かせて此方へと向かって来た。
「見てたか? 先程までの浮かねぇ顔をよ。ありゃあ絶対家出少女だぜ。兄さん、アンタ惡い大人だぁね」
呆れた様に、店主が小声で言った。
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光 - 作者様の前作から来ました!控えめに言って最高です。好き。更新頑張って下さい!応援してます! (2020年11月9日 21時) (レス) id: 41175d901c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤葛 | 作成日時:2020年7月13日 4時