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多分、志保さんは正解だ
揺れる電車のドアにもたれて
視線をぐるり走らせれば
パソコンを開くサラリーマンに
両手でスマホを弄っているのは
真っ黒なボブの女の子
その隣は若いお母さん
膝の上でご機嫌な赤ちゃんは
前に立つおじさんとにらめっこ
どの人も、私は知らない
紫耀くんが欲しがってるのは
こんな世界、なんだろうか
理由なんて分からないけど
抱え込まれてしまったものなら
そんなの見えるわけがなくて
ホームへと着いたドアの前には
知らない顔がひとつふたつ
やっぱり
私には分からない
改札を出れば吹き付ける
吐いたばかりの息を奪う風に
何か買っちゃおうかなぁ、なんて
自販機の前で足を止めれば
隣に立つ電話ボックス
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これ、だ
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気づく瞬間に手は伸びて
ドアを引いて中へと滑り込めば
押し寄せる溜め込まれた熱
おかげで
鼓動が煽られる
少し身体を捻っただけでも
すぐリュックが打つかる狭さの中で
記された白い文字を見ながら
開く小銭入れを覗いて
10円か、100円か
なんだかよく分からないから
とりあえず100円を入れてみると
カランとそれが戻ってくる
あ、先に受話器を上げるのか
緑の受話器を持ち上げてから
取り上げた100円を入れて
画面に映し出した番号を
ひとつずつ、押し込んでいけば
耳まで持ち上げた左手から
聞こえ始めたコール音
……1回、……2回、
瞬きたがる瞼をよそに
行き場のない視線を塞ぐ
…………4回
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出るか、
出ないか、
いつ出るか
.
これだから、電話は苦手だ
.
10回目まで繋がらなかったら
そしたら、諦めよう
なんて
そんなことを思うフリして
時間を稼いでいるわけで
.
「はい、もしもしー」
.
何回鳴らしたか、なんて
もう
覚えているはずもない
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ふとん(プロフ) - はるかさん» はるかさん、ありがとうございます!ようやく折り返しと言えるところまできました…最後まで頑張りますので、お付き合いいただければ幸いです! (2017年9月21日 23時) (レス) id: 1df4f5ed05 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - ここにきてこんなに切ない展開ってさすがです…続きがすごく気になります!! (2017年9月20日 2時) (レス) id: 66715550c8 (このIDを非表示/違反報告)
ふとん(プロフ) - つかささん» つかささん、ありがとうございます!最後まで自分の思い描いた世界を表現できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。 (2017年8月31日 9時) (レス) id: 1df4f5ed05 (このIDを非表示/違反報告)
つかさ(プロフ) - この作品を読んでいるとすごく不思議な感覚になります。更新楽しみにしてます。 (2017年8月28日 10時) (レス) id: ad87999c23 (このIDを非表示/違反報告)
りこ - 紫耀ちゃんが、いつ出てくるか楽しみです! (2016年12月19日 8時) (レス) id: a7ce410caa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふとん | 作成日時:2016年12月18日 21時