3 ページ3
.
『いらっしゃいませー』
開店するのとほとんど同時に
一気に人がなだれ込んで
あっという間に埋まる席
呆気にとられるような暇もなく
拡がりを増した騒めきに
私を含めてたった2人と
意外と少ない日雇い組は
奥へと回され皿洗い
そりゃそうだ
メニューも覚えてないんだし
ひたすら食器を洗っては
拭いて洗ってを繰りかえす
まぁ、このほうが気楽だし
初心者としては有難い
フロアに出ていくスタッフさんは
3つや4つもお皿やグラスを
腕に乗っけて行き来するけど
あんなの、レベルが高すぎる
右から左へ流れるように
拭き終えたグラスは運ばれて
代わりにお皿やスプーンが
カチャリ音を立て現れて
握るスポンジに浮かぶ泡
それをふわりとお皿に乗せたら
スポンジをするり滑らせて
クルクルくるくる回していけば
残った香りを絡めとる
毎日の家の洗い物は
おっくうで面倒くさいのに
黒が基調のお洒落なエプロンと
食器に浮かんたロゴマーク
それがあるだけで伸びる背筋は
単純だけど、心地いい
なんか
働いてるって感じ
キュッキュと音なんて出してみながら
グラスの水滴を拭えば
透ける蛇口が誇らしくて
手早く、綺麗に、丁寧に
とりあえずそれだけを目標に
確実に洗い上げていく
あとはなにより、割らないように
ようやく堅さのとれた手元に
少し余裕ができてきて
チラリ右に視線を飛ばせば
…早い
男の人なのに
私よりずっと手際がいい
不器用そうに見える厚い手は
するりと泡を撫で落として
流れ出す水はひと回し
なに、この人
気付けば水を浴びたままの手に
泡まみれのグラスを持って
忘れかけた仕事に戻れば
自分の手の動きが鈍い
…頑張らないと
やっと泡を流し終えたところで
なぁ、と鼓膜を押す声に
危うく落としかけたグラス
跳ねる鼓動に
急かされて
乾く唇に鳴らす喉
手の中のグラスを握り直し
声の元へと顔を上げる
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1504人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ふとん(プロフ) - はるかさん» はるかさん、ありがとうございます！ようやく折り返しと言えるところまできました…最後まで頑張りますので、お付き合いいただければ幸いです！ (2017年9月21日 23時) (
レス) id: 1df4f5ed05 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - ここにきてこんなに切ない展開ってさすがです…続きがすごく気になります！！ (2017年9月20日 2時) (レス) id: 66715550c8 (このIDを非表示/違反報告)
ふとん(プロフ) - つかささん» つかささん、ありがとうございます！最後まで自分の思い描いた世界を表現できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。 (2017年8月31日 9時) (レス) id: 1df4f5ed05 (このIDを非表示/違反報告)
つかさ(プロフ) - この作品を読んでいるとすごく不思議な感覚になります。更新楽しみにしてます。 (2017年8月28日 10時) (レス) id: ad87999c23 (このIDを非表示/違反報告)
りこ - 紫耀ちゃんが、いつ出てくるか楽しみです！ (2016年12月19日 8時) (レス) id: a7ce410caa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ふとん
| 作成日時：2016年12月18日 21時
