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押し合い続けてた視線は






逸らされて

行き場をなくすと







「あれ、」







すぐに戻ってきた瞳に

またあっさり絡め取られる







「わっ、」






突然その手に掴まれて

グイ、と右手が引っ張られれば






動いた足が踏み出すのは






『2番線発車しまーす、閉まるドアにご注意下さーい』






見慣れた駅のホームの上





すぐ後ろで閉まるドアから
はみ出した風が髪を押す






「セーフ、」





クルリ振り返る紫耀くんは

離した手を首へと当てて





「あー、あぶなっ。乗り過ごすとこやったわぁ」





なんの気もなしに笑うから





「手、痛くなかった?」

「あ、うん、大丈夫。ありがとう」





右手は熱を溜め込むまま






その背中が前に進めば

動き出した足につられるように
ようやく思考が溶け出して








ポタリとひとつ、垂れ落ちる









乗る方向が同じなのは




それは、

確かに話したけど









ちゃんと、記憶にあるけれど








「……言ったっけ」



「ん?」



「ここで降りるって、私、言った?」



「へ?言ってたよ?」







口を突いて出た問いかけを
ヘラリとかわした紫耀くんは

私の顔を覗き込んで





「Aちゃん、意外と酔ってるん?」





パチリ瞬いてみせるから







見上げてくる揺れた睫毛に




息を飲んだまま

押し黙る








もう人の散り切った改札は
やけに風通しが良くって

お酒で火照ったはずの身体は
おかげですっかり冷まされるから

つい腕をさすった手の平





上着持ってくればよかったな






「結構冷えるな、あんな暑かったのに」

「ね、ほんと」





だって、そもそも今日なんて

昼間に帰るつもりだったから
普通に薄着で来ちゃったし



これで自転車に乗ると思うと
つい溜息が出そうになって

ブルリと揺れた肩を擦る





「Aちゃん、」





落ちてきた声を見上げれば





「これ、あげる」





身体に被せられるパーカー



薄い生地に篭っていた熱が
冷えた肌をふわり掠めて






「風邪ひいちゃったら困るやろ?」






ズルい、と思った時には




もう




頭も、身体も、敵わない









「でも、」


「いいのいいの。それ、Aちゃんにあげる」









ふわり細まるその瞳は








またこうやって

簡単に







動くはずの全てを止めるんだ

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ふとん(プロフ) - はるかさん» はるかさん、ありがとうございます!ようやく折り返しと言えるところまできました…最後まで頑張りますので、お付き合いいただければ幸いです! (2017年9月21日 23時) (レス) id: 1df4f5ed05 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - ここにきてこんなに切ない展開ってさすがです…続きがすごく気になります!! (2017年9月20日 2時) (レス) id: 66715550c8 (このIDを非表示/違反報告)
ふとん(プロフ) - つかささん» つかささん、ありがとうございます!最後まで自分の思い描いた世界を表現できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。 (2017年8月31日 9時) (レス) id: 1df4f5ed05 (このIDを非表示/違反報告)
つかさ(プロフ) - この作品を読んでいるとすごく不思議な感覚になります。更新楽しみにしてます。 (2017年8月28日 10時) (レス) id: ad87999c23 (このIDを非表示/違反報告)
りこ - 紫耀ちゃんが、いつ出てくるか楽しみです! (2016年12月19日 8時) (レス) id: a7ce410caa (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ふとん | 作成日時:2016年12月18日 21時

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