ただいま、僕らの初恋 (ページ6)

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四角の中ページ6

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体験学習の一週間前の土曜日。
班のメンツでカラオケに行くことになった。

丁度その日は練習もなく、
久しぶりに友達と遊ぶこともあってか
俺はワクワクした気持ちで
約束の三十分前には家を出ていた。

自転車をゆっくりと漕ぎながら、
住宅街を抜け、橋を渡り、
通りすがりのおじいちゃんに挨拶をする。

やがて待ち合わせの時計台が見えて、
広場内の駐輪場に自転車を停めた。

まだ十五分もある。早く着きすぎたな。
時計台にもたれかかって、
ぼんやりと空を見上げた。

あ、

「……お、おはよう。」

駿佑「っうお！び、びった！」

「えっ、あ、ごめん……」

背後から聞こえてきた声。
驚いて後ろを振り向いたら、
白いワンピース姿の和田さんがいた。

駿佑「お、おはよう。……早いね、まだ十五分もあるのに。」

「……なんか、早く着いちゃって。というかそれを言うなら、道枝くんもやん。」

駿佑「俺、三十分前に家出たねん。」

「……んふ、何でドヤ顔。」

口元を軽く手で覆って、くすくすと笑う和田さん。
じっと見詰めすぎていたのか、
それに気付いた和田さんが不思議そうな顔で
なんか付いてる？と聞いてきたから
慌てて首を振る。

駿佑「髪……いつも縛ってるから、下ろしてるのなんか新鮮やなって。」

「ああ、……うん。そっか、そうやな。」

駿佑「……うん。」

二人の間に沈黙が流れる。
何となくそれがきまずくて
俺はきごちなく、「そら」と口にしていた。

「えっ、空？」

駿佑「そう。ほら！あの雲、さっきすごい犬に似てるなって思っててん。」

「どれ？どの雲？」

駿佑「あれあれ！」

「えー、あれ？」

駿佑「どう？似てへん？」

「んー…どうかなあ。」

和田さんの両手が宙を揺れる。
形が変わって、
フレームを作るように四角になった。

小さな爪が太陽の光に反射してきらきらしていた。

「似てへん。」

駿佑「え？」

「あの雲、やっぱり犬には似てへんて。」

駿佑「……そ、そうかな。」

「うん、道枝くんに似てる。」

駿佑「え、……おれ、」

「ふふ、……うん、おれ。」

手で作ったフレームが、
俺の方を向く。

覗き込むようにこちらを見る和田さんは、
少しだけ楽しそうだった。

雲が俺に似てるって、
どういうことなんだろう。