ふたりのカタチ《Kei.I》

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アヤ「へぇ〜伊野尾ちゃんも、たまにはしっかりしたこと言うじゃん。」






ガヤガヤと賑わう居酒屋。




アヤと一緒に飲もうってなって、

仕事終わりに久々に伊野尾以外の人と飲んでいる。




店員さんの「いらっしゃいませー！」と言う元気な声があちこちから聞こえてくる。







「たま〜にだよ、本当にたまに。」






今まで伊野尾は、あたしに対して厳しく言うことはあまりなかった。




そんな伊野尾がこの前、『いい加減前を向け。』と言った。



さすがの伊野尾も見てられないくらい、今のあたしは酷い状態なんだろう。






アヤ「ま、伊野尾ちゃんの言ってることは正論だよね」






アヤの前にはバーニャカウダ。


それをシンプルなサーモンピンクのネイルで飾られた指先で摘む。







アヤ「で？前は向けたの？」






ピッと、人参の先をこちらに向けて訊いてきた。






「そんな簡単に向けるかっつーの…」






口で言うのは簡単。


それを行動に移せるかどうか。



あたしの場合、前に進もうとしても心がどうしても引っ張られる。




あれだけあの人にひどいことをされても。

何度も周りに言われても。



あの頃の思い出を、恋心を、振り払う勇気がない。







アヤ「いいじゃん、鈴木さんにいきなよ」



「まだ好きとか そういうのは、なぁ…」



アヤ「話聞いてる限り、脈アリじゃん。」



「…そうなのかなぁ」






いい人だとは思うけど、恋愛感情は持ち込めない。



いや、まず鈴木さんがあたしのことをどう思ってるのかがハッキリしてないから何とも言えないけど。





うーん…と俯くあたしを見て、アヤがフゥ…と静かに息を吐く。







アヤ「追う恋愛はしんどいよ。追われる恋愛のが幸せだって。」







アヤのこの言葉がズッシリと心に重く響いた。


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