＃竜の願い...99 ページ8
・
開け放たれた障子の奥に見える庭。
―――そう、その時はまだ、黒んぼ切景秀と鞍切景秀は、誰の物でも無かった。
ただ二振りの刀として、来客用の貴賓室に飾られていた、「伊達家の道具」。
そこから見える庭で、政宗公――梵天丸は剣の稽古をしていた。
だから。
今、公と相対しているのは、あの竜の右目。
片倉小十郎だ。
「立て、梵天丸！」
...あの時の小十郎は怖かったなぁ...。
かくいう梵天丸も、疱瘡で右目を失ったばかりで、相当に荒れていた時期だ。
互いに乱暴で粗暴で。
あぁけど、小十郎の畑いじり好きはこの頃から変わらなかったっけ。
――伊達家から弾き出されていた者どうし。
最初はどうなることかって思ってたけど、案外相性良かったよな、この二人は。
「どいつもこいつもうるせェんだよ...！右目をやられた出来損ないって罵られてんのは知ってんだ！伊達家はもう終わりだって...。言われてることくらい...っ！」
全部、知っている。
投げ掛けられる言葉に、梵天丸がどれだけ苦しめられていたか。
その哀れみとも恐れともつかない視線に、彼がどれだけ苛まれていたか。
けど彼は、
―――そう、俺は。
「その下らねェ運命とやらをねじ伏せて、天下に名を上げた」
『ッ！？』
「ha!懐かしいなァ。お前も覚えてんだろ、俺がアイツにこてんぱんにやられたの」
いつからそこに立っていたか分からない。
ふと気配を感じ振り返ってみれば、...袴姿の男がこちらを見下ろしていた。
整った顔立ちの隻眼を、細めて。
「..."そっち"で、派手にやられたらしいじゃねェか」
『あ...え、』
どっかりと私の隣に腰を下ろしたその人は。
―――今に「独眼竜」で知られる、伊達政宗公その人だった。
余りのことに言葉が出ない。
これは、...一体。
「ここは本来、お前が来るべき場所じゃねェ。分かるな？生者が来て良い場所じゃねェんだ」
『...は、はぁ』
「それでもこうして俺のところに来たのは、...蒼天竜。つまり、俺に聞きたい事があるってことだ。you see？」
にやり、と上がった口角と、聞き慣れた南蛮語。
...間違うはずがない。正真正銘、私の「元」主だ。
聞きたい、こと。
あなたとこうして会話をするのは初めてですね、とか。
どうしてあの時、燭台切光忠を手放したんですか、とか。
話したい事、聞きたい事はバカみたいにあったはずなのに。
『...政宗公』
「ん？」
『"私は―――これから、どうすれば"』
口を突いたのは、そんな、ありふれた問いだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 368人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
＊紫苑＊(プロフ) - Ｒ−アル−さん» 一年半近くもお待たせしてしまい本当に申し訳ありませんでした……！更新はさせていただきます、大倶利伽羅と蒼天竜の道の果てをどうぞもう少しだけ見守ってあげてください！ (2022年1月7日 13時) (
レス) id: d8db5ba2d9 (このIDを非表示/違反報告)
＊紫苑＊(プロフ) - 鳴瀬さん» お久しぶりです！大変長らくお待たせしました……！確認したところ下書き中では完結となっていましたので、ここから整理して一気に放出してしまおうと考えています！もうしばらくお待ちくださいね…！ (2022年1月7日 13時) (レス) id: d8db5ba2d9 (このIDを非表示/違反報告)
Ｒ−アル−(プロフ) - さ、さ、作者様？？？“終わり”になってますが続きは無いのでしょうか・・・？（泣） (2020年10月13日 20時) (レス) id: 8b5171215e (このIDを非表示/違反報告)
鳴瀬 - 更新、ありがとうございます。続き、楽しみにしています。 (2020年5月13日 20時) (レス) id: 67ee969d2e (このIDを非表示/違反報告)
鳴瀬 - 最後まで、楽しみます。なので、体調に気を付けて頑張ってください。拗れに拗れているけど、そこが面白いです。伊達組、最高です。 (2020年4月23日 11時) (レス) id: 67ee969d2e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：＊紫苑＊ | 作者ホームページ：http://twitter.com/wakagi415
作成日時：2019年10月19日 21時
