＃竜の願い...115 ページ24
・
その日は、今までの生活の中で一番、"己を殺した日"だった。
審神者室で聞き耳を立てていたことを、誰にも悟られてはいけない。
顔に出すな。
声に出すな。
―――透け始めた指先を、見せるな。気づかれるな。
中々に根気のいることではあったが、
...それは多分、
普通に晩御飯を一緒に食べて、普通に「おやすみ」を言う。
その間に、隠し事をしている気配は一切なく。
あぁ、これじゃあいつもの私だったら、彼らが明日、私の依り代を守るべく出陣するということには絶対に気づかなかったな、と内心思った。
...そして。
(そろそろ、か)
開け放たれた障子から見える満月は、もう随分と高いところまで上っていた。
寝たふりをしていた私は、物音一つ立てぬよう細心の注意を払いながら、布団から抜け出す。
あの月の高さからして、...今は丑の刻といったところか。
さすがにこの時間帯に起きている刀剣はいないだろう。
それは、...同室の伽羅も例外じゃない。
『......』
微かに差し込む月光に照らされ、彼の横顔が見える。
小さく聞こえる整った呼吸音。
...大丈夫、寝てる。
薄い寝間着から、素早く戦装束に着替える。
準備は、あらかじめ昼間の内に整えておいた。
"一人で出陣する準備"は、もう、出来ている。
冷静に考えたら、そもそもの話がおかしいのだ。
自分の存在の是非―――命が脅かされていると知って、
それを全部他人任せにしておく間抜けがどこにいる？
確かにあの四人は、...私の一番の仲間である、伽羅、光忠、鶴丸、貞は、文句のつけようがないほどに信頼に足る刀たちだ。
けど、それとこれとは話が違う。
私が消えるか消えないか。歴史上から抹消されるかされないかは、私自身の問題だ。
消えるも消えないも、私がこの手で決める。
その方が、...どんな結末を迎えるにせよ、良くも悪くも責任は全て、私が負うことになる。
それが本来の成り行きだ。
私が負うはずの責任を、わざわざあの四人に背負わせる必要はない。
...ただ。
...一つだけ。
(もしも帰ってこれなかったから、...もう、話しかける事も出来なくなるな)
誰に。
―――伽羅に、に決まってる。
それだけが、私にとって唯一の不確定要素だった。
無論、帰ってこれなくなるつもりはない。
絶対に、もう一度この本丸の敷居をまたぐ。そう心に決めている。
けど。
「もしも」は怖い。
この場に帰ってこれなくなる可能性が0ではないことが、今は純粋に―――寂しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 368人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
＊紫苑＊(プロフ) - Ｒ−アル−さん» 一年半近くもお待たせしてしまい本当に申し訳ありませんでした……！更新はさせていただきます、大倶利伽羅と蒼天竜の道の果てをどうぞもう少しだけ見守ってあげてください！ (2022年1月7日 13時) (
レス) id: d8db5ba2d9 (このIDを非表示/違反報告)
＊紫苑＊(プロフ) - 鳴瀬さん» お久しぶりです！大変長らくお待たせしました……！確認したところ下書き中では完結となっていましたので、ここから整理して一気に放出してしまおうと考えています！もうしばらくお待ちくださいね…！ (2022年1月7日 13時) (レス) id: d8db5ba2d9 (このIDを非表示/違反報告)
Ｒ−アル−(プロフ) - さ、さ、作者様？？？“終わり”になってますが続きは無いのでしょうか・・・？（泣） (2020年10月13日 20時) (レス) id: 8b5171215e (このIDを非表示/違反報告)
鳴瀬 - 更新、ありがとうございます。続き、楽しみにしています。 (2020年5月13日 20時) (レス) id: 67ee969d2e (このIDを非表示/違反報告)
鳴瀬 - 最後まで、楽しみます。なので、体調に気を付けて頑張ってください。拗れに拗れているけど、そこが面白いです。伊達組、最高です。 (2020年4月23日 11時) (レス) id: 67ee969d2e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：＊紫苑＊ | 作者ホームページ：http://twitter.com/wakagi415
作成日時：2019年10月19日 21時
