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鶯丸様は嫌々座ると、訝しげに置いてある空の茶碗を見る。
「……どういうつもりだ？」
「あぁ、これはですね。貴方様に変な疑いを掛けられないようにと思いまして。中に何も無いですよね？こちらにあるものをお借り致しましたが…」
「あ、嗚呼…」
そう、先に淹れておいて「毒が入っている」と疑われては困るからだ。というかめんどくさい。
だったら最初から本人に確認させて、それから急須で注げばいい。自分や長義さんのも淹れるのだから、そこに毒を入れようだなんて余地はない。
「…うまい」
「そうだろう、主は存外茶を淹れるのが上手いんだ。疲れた時にはよく効く」
「そんなに褒めても何も出ませんよ、長義さん」
本当に何も出ない。書類仕事を出してやろうか。
とはいえ喜んでもらえて何よりだ。少しは気を緩ませてくれただろう。
…………さて、仕事の時間だ。
「本題に入らせて頂きますが…」
「…あぁ。」
「鶯丸様、我が本丸で働いていただけませんでしょうか。」
「戯言を…」
「…戯言では御座いません。私は鶯丸様を勧誘に来たのです」
「堕ちた刀など勧誘してどうする」
「堕ちていても貴方様が黒に染まりきった訳では無い。私は見ていてそう感じましたよ」
そう、本当に堕ちたというのなら…歴史改変の敵となる刀剣男士を折ろうという意思が働く筈。
だと言うのにこの鶯丸は傷一つつけないようにしている。現に、指摘したら動揺して剣先が震えている。鼻に当たりそう。やめて。
「だが…！」
「貴方様が堕ちたことを悔やんでいるのでしたら御安心ください。我が本丸には貴方様のような刀剣が沢山居ますから。」
「…！？(まだ俺と君しか居ないが！？)」
長義さんがお茶を吹き出したのは見なかったことにしよう。
「………そう、なのか。」
「ええ。私、これでも仕事のことで嘘はつきません。もし信じられないと思いましたら何時でもその刀で私の首を後ろから撥ね飛ばしてくださいませ。」
私は鶯丸様の刀を掴み、首に持っていく。これで動かされたら自業自得でしかないがある意味賭けだ。
…どう、出る
………此奴は…この審神者は……本気、なのだろうか。
自ら血を流すことを厭わず……あまつさえ刀を下げさせるのではなく、自らの首へと持っていった。それ程の覚悟があるというのは一目瞭然だが、そうだとしてもこのような判断になるのは可笑しい、命が惜しくないのか。この者は……
狂って、いないか───
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作者名：伏見桜 | 作成日時：2021年5月3日 3時
