sn-2 ページ13
・
「………でもね、わたしも行ってみたいとこはあるんだ。死ぬ前に、絶対行ってみたい場所。」
そう言いながら彼女は診療所の窓に手を掛けた。窓が開け放たれると、少しだけ入ってきた夜風が彼女の無造作に切られた髪を揺らす。
その時の彼女の顔は自分からは見えなかった。だが、声が酷く寂しいものだったのは覚えている。
「わたしはね……空、飛んでみたいんだ！それで、雲に乗ってふわふわして、虹のアーチを滑り台みたいに滑る。きっとどんな場所より楽しい！」
こちらを振り向いて笑う彼女は、手を掴んで居ないと何処かに行ってしまいそうな、そんな儚い微笑みを顔に浮かべていた。
瞬間的に彼女の手を掴む。きっと彼女の願いは叶わない。それでも、何処かへ行ってしまいそうで怖かった。
「……窓枠に座ったら危ないよ、こっちにおいで。それと包帯も結び直してあげよう」
「わたしはね、せんせい！」
自分の言葉を遮った彼女に驚きを隠せない。いつだって彼女は、僕の話を最後まで聞いて、決して遮ったりはしなかったから。
「……お父さんとお母さんにね、産んでやっただけ幸せに思え、これ以上の事を願うな、穀潰し、って言われたの。最後のは難しくてわたし分かんなかったんだけどね、何となく言ってる事はわかったの。」
「わたしは本当は、生まれてきちゃいけない子だったんだって。だから今わたしが生きてる事はキセキ。こうやってせんせいと話せてる事もキセキなんだよ」
「わたしね、せんせいと居るこの時間が一番好きなの。せんせいはわたしの事否定しないで居てくれるし、話も聞いてくれるし、なにより夢を自由に言える。なんて幸せなんだろうね、わたし！」
少女らしい笑顔で語り続ける彼女に、言葉を挟むことなんか、出来なかった。
彼女は家での居場所が無いんだ。前から何となく分かっていた筈の事で、今こんなにも胸が痛い。
嗚呼、何で父さんは心の治療の仕方を教えてくれなかったんだ。
「わたしね、さっきも言った通り、空の上に飛んで行きたいの。だって空って、どんな所より大きくてきれいだから、きっといい場所だと思うんだ。」
再び椅子に座った彼女は、またもや語り始める。
「でもね、わたし、決めたの。わたし、何処にも行かない。だって、何処かに行っちゃったら、せんせいと会えなくなっちゃうから！」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 20人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
猫缶。(プロフ) - ゴミ箱さん» はい、その曲を意識しています。青谷さんの曲大好きなので、気付いて頂けて嬉しいです…！ (2020年6月19日 16時) (
レス) id: efdd73f72f (このIDを非表示/違反報告)
ゴミ箱 - 人生なんとなく生きてきたい歌のパロ入ってますか？入ってなかったらすみません、歌詞と似たような言葉を発見したのでつい、、、 (2020年6月19日 6時) (レス) id: efe6ff4b4a (このIDを非表示/違反報告)
猫缶。(プロフ) - もちもちさん» 書きたい欲が出てしまいまして……めっちゃ急ぎ足で書いてしまいました。やっぱ詐欺師組は自分の意思消してでも残酷な手段取ると思うんだ。お気に召されたのなら良かったです！またいつでもリクエストお待ちしてます！ (2020年3月17日 19時) (レス) id: efdd73f72f (このIDを非表示/違反報告)
もちもち(プロフ) - 猫缶。さん» 仕事が！！！早い！！！！はい、詐欺師組格好良かったですありがとうございました。きっちり始末はする辺りやっぱ詐欺師組。そうやって内心とは裏腹にきっちり通すところ通してしんどくなるの好き。いつも通りで一気にしんどくなりました。いつも通りね…うわあ…。 (2020年3月17日 19時) (レス) id: cd13c32878 (このIDを非表示/違反報告)
猫缶。(プロフ) - もちもちさん» コメント・リクエストありがとうございます！詐欺師組ですね、了解しました。遅くなってしまうかも知れませんが、精一杯書かせて頂きます。 (2020年3月17日 14時) (レス) id: efdd73f72f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：猫缶。 x他1人 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fusan11302/
作成日時：2020年3月16日 23時
