仕事の話 ページ29
「だからその時私いったのよ『やめたほうがいいんじゃないの』って、なのに優作ったら……」
酔いが回った有希子さんの話に付きあいながら、彼女に水の入ったグラスを渡した。
「ごちそうさま。俺、本の続き読んで寝るから上あがるわ」
新一くんが自分の食器をまとめ席を立とうとする。
「新一、母さんをベッドルームに連れて行ってくれないか。私はここで日本君と今後の仕事の話をするから」
そうだった、他人事のようで全く考えていなかった。
夫妻がアメリカに移るんだったら秘書も一緒に行くのが当然だろう。
また日本を離れねばならないのは不都合だなあ。適当に理由をつけて離職するのが自然か
「ヘイヘイ、おい母さんいくぞ」
「新ちゃ〜ん」
チュチュチュチュ〜とキスをしまくって完璧に出来上がっている有希子さんを、とても面倒くさそうに抱き起し、新一君が部屋を出て行った。
「家庭っていいですね」
「それは将来家族を持つことへの憧れかい?育った過去を懐古しているのかな?」
「どう……でしょうね」
どちらでもない。
わたしにとって工藤家のような愛と信頼にあふれた家族像は、羨みと憧れの対象でしかないから。
「少しだけワインに付き合ってくれないかい」
視線を落としていた私に工藤先生が微笑みかけた。
やわらかいのに少し怖い笑み。
先生がセラーにワインを取りに行っている間に食卓の食器をシンクに片し、カウンターにワイングラスを二つ並べておいた。
地下から戻ってきた先生が持っていたのは、ほこりをかぶった赤ワインのボトル。
「開けてもらっていいかな。デキャンタ―ジュの必要はないと思うから」
「はい、もちろん」
いつもやるように手の動くまま栓を抜き、澱を舞わせないようにそっとグラスに注ぎわけて、一方を隣に座る先生の手元に滑らせた。
「ありがとう」
「いえ、こちらこそご相伴させていただきありがとうございます」
二人ほぼ同時にグラスの中で液体を回し、一口含む
芳醇な香りと程よい渋みが口の中いっぱいに広がった
「君は本当に優秀な助手だよ。仕事もぬかりないし、ワインの開け方も完璧だ」
工藤先生がワインを見つめながら言う。
「初めは少し警戒していたんだけどね。魅惑のアドラーなんて不詳な通り名だったから」
「ご存知だったんですね。」
もう驚きはしないけど、改めてこの大作家の頭脳とリサーチ力には感服してしまう
「今後のことだけどね」
そう切り出す先生と、しっかりと目が合わさった。
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よしのん - すごい好きです。応援してます! (2022年4月19日 12時) (レス) @page32 id: e3b8c03485 (このIDを非表示/違反報告)
猫(プロフ) - 面白いです!続き待ってます!! (2022年4月18日 19時) (レス) id: 159bb94574 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいすな - 夢主のキャラ大好きです。新人との関係気になります! (2019年2月16日 22時) (レス) id: a004368014 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:作者A | 作者ホームページ:https://plus.fm-p.jp/u/zero1632
作成日時:2018年12月26日 7時