697話 ページ48
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鍋を食べながらも他愛のない話をした。
風見さんが京都土産を喜んでくれていた、とか。
京都で食べたものの話とか。
事件については、互いに何も話さなかった。
零さんの耳に、あの場に工藤新一がいたことは入っているはず。
そのことについて何も言ってこないことにホッとした。
俺に探りを入れてこようとはしない。
京都にいるときに、電話で探りを入れられて、“そんなことする零さんは嫌い”と言ったのが効いているんだろうか…。
それとも、俺に何を聞いても答えないと分かっているからか…。
「体調、大丈夫か?」
『えっ』
ご飯を食べ終えてソファで寛いでいると、零さんが隣に座ってきた。
「随分、思いつめた表情をしているから。熱は…まだ少しあるか…」
零さんの冷たい手が俺の額に触れた。
「それとも、何かあったか?また一人で考えこんでるんじゃないだろうな?」
じとっと怪しむように俺を見る零さんに、どう答えればいいのかと頭を回転させる。
嘘はきっと、見破られる。
でも、俺は何も言えない。
『ごめん、言えないことかな』
「…そうか」
どうして俺は、この世界の人間じゃないんだろう。
全てが終わるまで、俺は何も言えない。
貴方を欺いて、傷つけることしかできない。
いっそ何もかも忘れられたら…どれだけ楽だろうか…。
この世界のことを何も知らなければ…。
中途半端な知識が、俺を苦しめるんだ。
「…お前も苦しいんだよな」
ぎゅっと抱き寄せられた。
「すまない。僕のそばにいることで、お前を苦しめているんだよな」
『そ、そんなこと…っ』
図星をつかれて、思わずたじろいだ。
「いや…最初から分かってたんだ。僕といることでこの先もお前を苦しめてしまう。だけど、僕はお前を自分のものにしたかった。自分の欲のために、Aの気持ちを犠牲にしたんだ。最低の男だろ?」
眉を下げて笑う零さんに、胸を締め付けられながらも首を横に振った。
「心地よかった。Aと一緒にいることが。でも、僕はやっぱりAが好きだから。お前を苦しめるなら――…」
『嫌だ…っ』
零さんが何を言おうとしたのか分かってしまい、彼の袖をぎゅっと掴み、言葉を遮った。
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096 - ちぃさん» 読んでいただきありがとうございます!深く考えていただき、嬉しい限りです…!人の数だけいろんな行動の仕方があると思います。葛藤の中で得た黒瀬の決意を、これからも見守ってあげていてください! (2019年12月22日 21時) (レス) id: e8c1cec671 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ(プロフ) - 別れたからってなにもしないのではなくて、世界を変えれないのなら影からサポートしたり守ったりするかも、、、。唯一の方法かなと思いました。 (2019年12月22日 1時) (レス) id: 13503def23 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ(プロフ) - やっと読めました、自分ならどーするか考えました。大好きな世界の均衡を保つ為、大好きな人を守る為にも、零さんから恨まれるくらいに嫌われてから別れるかなーって。全てが終わった時にもう一度始めからやり直す選択をするかも知れないですね。 (2019年12月22日 1時) (レス) id: 13503def23 (このIDを非表示/違反報告)
096 - りんねむさん» コメントとお気遣い、ありがとうございます!一気読みお疲れさまでした!これからも頑張りますので、よろしくお願いします! (2019年12月17日 14時) (レス) id: e8c1cec671 (このIDを非表示/違反報告)
りんねむ(プロフ) - 初コメ失礼致します。ここ数日で最初から一気に読んじゃいました!とっても面白いです!無理なさらぬよう、更新頑張って下さい!陰ながら応援しております!(*^^*) (2019年12月16日 18時) (レス) id: 529938dd30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:096 | 作成日時:2019年11月26日 23時