靴に画鋲を入れます【及川徹】

九個目 ページ10

部活がオフの日は画鋲を入れない。毎日入れていても新鮮味がないし、たまには休息があってもいいと思う。

それが今日だ。
朝早く起きなくていいし罪悪感も緊張感も感じなくていい。少し一般生徒と同じになった気分なんだ。


普通の時間に起き、行ってきますと声をかけ扉を開いた。


――その時だった。


門の前には見慣れた制服を着たなかなか見慣れた姿。
声を出す余裕もなくヒュッと息が沈む。


「おはよ」


そして一番気をつけようとしていた人物がスマホを片手にこっちに振り向いた。


「国見英……！」
「…………」


声に出たと焦った時には時すでに遅く微妙な顔を浮かべる国見英。
フルネームやめろよとでも言いたいんだろうけど私はそれどころではない。もしや殴り込みか。


「なんで……」
「学校行こ」
「え、は、なんで……」
「勉強するため」


違うそうじゃない。訊きたいことが山ほどある。


「普段結構ギリギリまで寝てるんだね。遅刻するから早く」
「え、あ……うん」



後から訊けば中学から体育館に見学に来る私のことを見ていたらしく、帰る方向も似ていたため気にかけていたらしい。
でもなんでそんなことをするのかは教えてくれなかった。

それからというものの。


「Aさん英和辞典貸してくんない？」


なんで私の名前を平然と言う。


「お昼しない？」


違うクラスだぞ。


「体育のペアとかどうしてるの？珍しく合同だし……組む？」


哀れむな。


「明日の午後練あの人委員会でちょっと遅れるらしいよ」


なんで……関わってくるようになった。

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