【名探偵コナン】存在証明#4【降谷零】 (ページ9)

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奇跡。そんな単語にはたと気を取られる。
　確かに、奇跡と言えば奇跡だったような。

　なんというか、論理的ではなかった。どちらかと言えば、感情に素直というか、直感的というか、本能的というか。
　あの一件で自分でも気付いた(・・・・・・・・)ことはあったが、それを顧みてもやはりなんというか───自分らしくないな、とどこか他人事のように思った。

「主治医としてもまあ、嬉しい限りだけれども───あ」

　と、降谷が一人考え事をしている時に、飛鳥は顔を青くする。何か良からぬことを考えているような、そんな気がした。

「───朝まで一緒とかもしかしてAちゃんに変なことしてないでしょうね！？」

「断じてしてない」

　良からぬことというか、くだらないことだった。

◇

「……え、いや、何話してたんですか？」

　帰ってくるなり、先生に何かあったらすぐに連絡するのよ、なんて肩を掴まれてめちゃくちゃ真剣な顔で言われた。
　一体何を話していたかは知らないが、多分先生の杞憂というか、ちょっと心配しすぎだと思う。その可能性はありませんとなだめつつ、予約票を受け取って病室を後にした。男は狼よ、って言ってたのは二人して無視しておいた。

「……あの、何話してたんですか？」

「……くだらない話だ、気にしなくていい。本当に」

　車の中で、先生にした質問と同じ言葉を投げかける。すれば、本当にくだらなさそうな顔して、降谷さんは言った。ため息が混じっていたし、多分本当に(先生には申し訳ないが)クソどうでもいい話に違いない。あとで先生に安心してくださいってメッセージ入れとこ、なんて思った。

　街並みを眺める。
　実際に私は経験したわけではないものの───長い長い冬が終わっていくようだった。病室から外を眺めた時。初めてこの車から外を眺めた時。それらと比べて、人々は少しずつその服装を変えていく。

　多分、長い冬だった。
　なんとなしにつけられたラジオからは、もう桜の話をしている。ああ、もうそんな月なのか、と。裸になっていた木々が少しずつ着飾り始めているのを見て、いいなあ、なんて平和ボケする。

「───くしゅん」

　思わず袖で口を覆う。やばい普段ふざけて出すような変なくしゃみじゃなくてよかった、と鼻を啜った。

「寒かったか」

　と、窓を閉めてくれる。どちらかと言えばこの助手席に染み付いた香水の匂いを飛ばしたいので閉めないでいてほしい。がそれを言えるはずもなく。

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