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 こういう時、どんな顔をすれば良いか分からないの。
 割と冗談じゃなくて、こんな言葉が胸の中で反芻された。これ、冗談以外で言いたい時あるんだ。

「あの、……昨夜は」

「すみませんはナシだ」

「……」

 答えは沈黙。いや、私がそれしか返せないってだけで。

 ああう、と変な声を出しながら昨夜のことを思い出す。ちなみに私はベッドの上で正座、彼───降谷さん、は、あぐらをかいている。なんで人様のベッドの上でこんなことしてるんだろう、私は。


『なんで、私なんかと───』


 羞恥心とか申し訳なさとかで死にたくなった。
 私、なんてひどいこと言ってたんだ、昨夜。

 ……最悪すぎる。この人は謝るなという圧をかけてくるが、こんなもの土下座謝罪モノだろう。医療費払ってくれてその上面倒見てくれた人に対してあんなこと、言って───


『……わけなんて、いらないんだよ』


 思い出した。
 それだけじゃ、なかった。

 何も私が喚き散らしてそれを宥められたってだけじゃなかった。

 私が私自身に突き立てるナイフを、この人は素手で掴むみたいに。
 このひとは、否、降谷さんは私のことを否定したことなんてなかったのに、私は私を否定していた。そう思い込んでいた。そうすることで、何か安心を得ていた(・・・・・・・・・)のだ。

 自分で引くセーフライン。傷つかないように被っていた安全帽。でもそれは、傷つかない代わりに、最も必要なものも得ることができなくって。

 昨日のことをとつとつと思い出す。恥ずかしいし、穴があったら入りたい。
 でもそれと同時に。嬉しくて嬉しくてたまらないところも、あって。

 人の心の中に勝手に入ってくるんじゃねえよ、と思った時もあった。けど、必要以上に拒否していたのは私だった。だからこの人は、力づくでこじ開けてくれたのだ。それが───それが嬉しくて、嬉しくて。

 喚いて、泣きじゃくって。その上で、私のことを肯定してくれた。
 あの熱は、多分この先、一生忘れられないだろう。それほどに、火傷しそうに。

 多分誰でも良かったわけじゃない。
 なんて形容すれば分からないけど───これは、多分、降谷さんだから、嬉しかった。

 ばかだなあ、って、思った。

 申し訳ないとか羞恥心とか割と今更感ある。もうあれ以上の羞恥とか多分ない。
 だから私が今言うべきことは、

「あの───ありがとう、ございます」

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作者名:名無しさん | 作成日時:2023年3月6日 21時

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