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「大学生……ではない、な……ええと、訳あって辞めたと言いますか。ちょっといろいろあって」
「そ、そうだったんですか」
「へえ、大学を辞めたばかり。じゃあ生活には困窮してる……ってわけでもない。生活に困っているのなら毎日配達に励むはずだし、少なくとも食べることには困ってない? おそらく同居人がいる───彼氏か、家族か。おそらく前者」
「……彼氏じゃないです、同居人はいますけど」
ええ、と彼の隣から驚いた声が上がった。
「どうしてそこまで分かるのよ?」
「匂いだよ、匂い。配達に来る前に何かしら料理をしたような香りがするんだ。時間帯的に、おそらく夕食か何かを作り置きしてから配達しに来ている。それに───」
「それに?」
「この間、近くの業務用スーパーで買い込んでるところをたまたま見た」
「……って、元から知ってたってことじゃない! ずるーい」
どやされて、へへ、と彼は笑ってそれを躱す。
「材料から見て、栄養もよく考えられて体力のつくようなものもある、それで彼氏と同居してるんじゃねーかって思ったんだけど───最後の推理だけ外れちまったな」
「ったくこの推理オタク……すみません、ほんとに……プライバシーってものがないんだから」
「いや、気にせず」
申し訳ないが、その推理オタクっぷりはよくよく知っている。それを言えるはずもないので、はは、と苦笑いで返した。
「まあどうせ、あと二ヶ月くらいですし」
「え、やめちゃうんですか?」
「元々短期契約なんです。だから次はどうしようかな、なんて」
ははは、と乾いた笑いが出た。こんな言葉を口から放ったが、正直何も考えていない。今そういえばそうだわ、なんて思った。
二人は少しの間黙って、それから顔を見合わせた。そういえば、そうだな、なんて二人の間で謎の会話が交わされた後、彼女はずずいっと顔を覗き込んできた。
「あの、この後、お時間ありますか?」
「───え? ああ、はい、もう終わりなので、あとは事務所に戻るだけですけど」
「来て欲しいところがあるんです!」
ポアロじゃねーか。そう口から飛び出るところだった。それを耐えた自分を、褒め称えたい。こればっかりは、いいだろう。
なんかちょっとそこそこ嫌な予感を抱えながら、二人に連れられるまま自転車を手押して来た。目的地がここだとは、なんと言うか───否、想像などできるはずがない。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2023年3月6日 21時