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柔らかく、細い髪に手のひらを滑らせる。髪も猫っ毛であるのだし、やっぱり仔猫か何か……いや、うさぎかもしれない。寂しくて死んでしまうというのはドラマから広まったデマにすぎないが───彼女の場合、こうやってついていないといつの間に死んでしまうのは本当だろう。
……もう少し、一緒にいられる時間を増やせないだろうか。
無理だと分かっていることを考えてしまう。あれを詰めれば、あれを(風見に)急かせば。おそらくは、あるいは。なんて、ぐるぐると思考を巡らせてしまう。
───うさぎは寂しいと死んじゃう───
寂しくて死んでしまうというのは、彼女においてはあながち間違っていないのかもしれない。まだ少し赤みの残る目元を眺めながら、結びっぱなしの髪を指の間に滑らせる。
背伸びをしている子供だ。
痛い、辛い、苦しい。
そんなことが言えないままに、それがいつか自分や周りに悪影響を出すと分かっていながらも耐え続けてしまう。言える機能と余計な物事まで考えてしまう部分だけが発達してしまったような。ひどく、何かが欠如したままに、大きくなってしまったような。
耐えられるのなら、生きていけるのなら、それでもいいだろう。
だが彼女はそうじゃなかった。もう崖っぷちにいて、片足を放り出していて。もう破裂寸前の爆弾を誰にも見えないように抱え続けていたままで。
それだと、少なくとも自分は、見過ごせなかった。
……馬鹿だな、と小さくため息をついた。
そう思うのは間違っていないだろうが、いかにも
でもいいか、と、彼女の体温に触れていると投げやりになってしまう。思わずぎゅうと抱きしめる。
「───ぅ」
腕の中から小さなうめき声。しまった、と思った時にはもう遅くて。
しばらくの沈黙の後、信じられないくらいに大きく目を見開いた彼女が───Aが、声にならない声をあげた。
「〜〜〜〜〜〜〆※∽∂ω∂∴⇔───!?」
おはよう、という僕の声は、それにかき消されてしまった。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2023年3月6日 21時