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誰とも会わないことを願いつつ自転車を走らせるが、時間帯はちょうど放課後に重なっている。嫌な予感しかしないうちに、工藤邸の前へと着いてしまった。
「でっか……」
そそくさとポストに荷物を押し込む。よし会わない、隣の建物には目もくれない、さっさと事務所に戻って帰りたいと願ったその時、
「あ、あの時の俺のファン!」
「ファンじゃねえ!」
失敬、声を荒げてしまった。私のあからさまな態度に彼はニヒヒと狙ったような笑い声を浮かべた。無論と言うか何と言うべきか、やはり隣には彼女がいた。
「あ、先週の! あの時は新一が本当にご迷惑を……」
「あ、いえ、お気になさらず……」
彼女が勢いよく頭を下げたものだから、こちらもついつい腰を低くしてキャップを外す。
そんなやりとりをしている間に彼は郵便受けからどさっとファンレターを取り出し、にやにやとしながらそれを少女に見せつけた。
「ほら見ろよ! 今朝の新聞にもテレビにも出だして、ついにはファンレターが続々と……」
「バッカみたい、ヘラヘラしちゃって! 配達員さんも呆れてるわよ、そんなにヘラヘラしていつか配達されなくなっても知らないんだからね」
仕事なのでそれはないです。そんな言葉を飲み込んだ。それから少女は何か気付いたように、こちらへ近付いてきた。
「あ、もしかしてうちに何か来てないですか? 毛利探偵事務所ってところなんですけど……」
「………………ええと、請求書が一通」
それを手渡す。ぽかんとした彼女の顔に、くっ、と笑いを堪える声。それから一瞬して、ひゅっと空気を切る音がした。
「……笑ってないです……」
「何も言ってないわよー?」
生で見ると迫力が違うな、なんて背中に汗を感じながら思った。絶対怒らせるようなことはないだろうけど、絶対に怒らせたくないな、なんて。
「あ、私、毛利蘭っていいます。うち宛の荷物あれば、こいつのファンレターなんかよりも優先しちゃって大丈夫ですから!」
あまりに意気込んだその剣幕に、はい、としか返せなかった。契約が終わるまでの数ヶ月、ずっとここに通うことになるのだろうか。めっちゃ嫌すぎるという自分の気持ちに嘘をついて、蓋をした。これは、蓋をしていい感情だろう。そうじゃなければ、心が折れてしまう。
帰りに手を振り直しながら、この先どうしたものか、と頭の中がぐるぐるしていた。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2023年3月6日 21時