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少女にどやされると少年はどこか恥ずかしげに、「悪かったな」と私に言葉を投げつけた。顔にはそこに立っていたのが悪いだろとなんとなく、そう、なんとなく。見えたのだ。言われたから
「……お気になさらず」
「ほんとにすみません……」
「や、うろついていた私も申し訳ないですから……練習中断させちゃったみたいですいません、氷嚢ありがとうございます」
今ではあくまで歳上だ。痛む鼻を押さえながらも笑顔で返す。大人だ、大人だからな。
と、鼻をさすりながらキャップを被り直し、本来の目的を思い出す。地面から腰を上げ、くるりと向き合い、真正面から(心なしか)睨みつけながら、
「配達です、……工藤新一さん」
荷物をベンチに置く。ファンレター、小包、その他諸々。おお、とまた小さな歓声が他サッカー部員から上がった。
彼は少しの間ぽかんとして、それからピンときたような顔で満足げに笑顔を浮かべた。
私を指差し、
「───あれ、もしかして俺のファン？」
「そんなわけがあるか！」
……失敬、声を荒げてしまった。そして背後で空気がちょっと固まる気配がした。
「なんだ、ちげーのかよ？ 俺宛の荷物を、学校に預けずに直接届けようって思ったのなら俺の顔やサッカー部に所属していることを知っている筈、そして職権濫用でもして俺に会いに来る相当のファン───」
「違います」
え、と彼は残念そうな顔をする。背後からほっとする空気が感じられた。以外と分かりやすい。
「ファンでもなんでもないです、ただの配達人です。練習邪魔してすんません、じゃあこれで」
と、氷嚢を少女に返してそそくさとコートを後にする。
後ろからは少女のちょっと怒ったような声と、ハイハイとそれを受け流す少年の声。
はあ、と大きなため息が出た。鼻をさする。なんだかとても、どっと疲れた。……これからもここに配達する可能性は大だ。帰りに誰かに聞いてでも、訪問者用入口か何かを聞いておかねばならない。
自転車を押しながら、また、大きなため息が出た。
「……フラグ回収早すぎるだろ」
一週間後に、またその必要としていないチャンスは舞い込んできた。あそこ行きたくないので荷物私に振り分けないで下さいなんて言えるはずもなく、今日は工藤家の直接のファンレターやら何やらが山盛りに仕分けられた。歩合制だから一箇所に荷物が集中するのは助かるけど、なんかそういう次元ではない。
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作者名：名無しさん | 作成日時：2023年3月6日 21時
