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更に見るべきはその宛先だ。工藤新一って書いてあるじゃねーの馬鹿じゃねーのと内心自分を殴り続ける。
ここの地区で自転車圏内というのであればすぐに分かったはずだ。なぜこんな大ポカをやらかしてしまったのか。
だが、ここで引き返すわけにはいかない。私の給料のためにもここは腹括って荷物を投げつけるだけだ。会社のロゴの入ったキャップを被り直す。
……と、意気込んだまではいいものの。
「広すぎるだろ……」
校門にインターホンはないし、放課後なのか誰もいないし、裏口もどこなのかわからないし。どこから配達すればいいんだよ、と自転車を押しながらとぼとぼと歩く。
と、ふいに横を一緒に歩いていたフェンスが途切れた。なんだろうと見てみれば───サッカーのコートのようだ。そこを走っている人間を目で追えば───
「……あ」
いたな、宛先の人物。
自転車を脇に停め、小包を抱えてコート脇のベンチへと近づく。来たはいいものの、今練習中っぽいし、誰かに預けようかな、なんて思っている時───
「あっ、危なーい!」
「……へ、」
声のしたほうへ顔を向けた瞬間。
ばす、と私の鼻を、ボールが折った。
「ぐはぁ!?」
星だ! いま星が見えたスター!
終わった、と思った。人生が。割と、終わったと思った。痛すぎる、と感じながら、走馬灯じみた何かがカラカラと空に映っていく。っていうか、なんで視界に空があるのだろうか。ああそうか、ボールが当たって、私は後ろにのけぞって、それで───なんだっけ───
「───星が見えたスター!」
がば、と体を勢いよく起き上がらせる。それはほとんど反射と等しく。おお、となぜか歓声めいた声が周りで上がった。
へ、と呆けた声を出す。それから、氷嚢が顔に置いてあったことに気付いた。鼻は折れてないし、その上冷たい。私が勢いよく起きたせいで、まだ冷たい氷嚢は手元に落ちてしまっていた。
……周りに、すこし人だかりができている。私の顔を覗き込んで、大丈夫か大丈夫かなどと声を上げていた。
それから、隣に膝をついていた少女が声をかけてきた。
「あの、大丈夫ですか……? すみません、アイツの蹴ったボールが、本当にすみません……!」
「だーから大丈夫って言ってんだろ、これくらいで人は死なねーよ」
「そういう問題じゃないでしょ! ほら新一も謝って!」
あー、と小さく声が漏れた。
なんとなく、状況は理解した。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2023年3月6日 21時