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「で、でででも、あれです! 運動になります! わたし、健康になれます!」
必死のプレゼンにも関わらず、降谷さんは難しい顔のままだ。でもさっきよりちょっと悩んでるっぽい。この調子で───!
「私思ったんです。やっぱりこのままじゃだめだって! 変わらなくちゃいけないんですよ! いつかはこの家を出て───」
「行く必要はないな」
「……ん?」
あれ、と首を傾げる。
「分かってないようだから言っておくが、君はまだ観察保護対象である以前に、れっきとした病人だ」
う、と小さなうめき声が漏れる。そのカードを出されると何も言えない。事実陳列罪で訴えてもいいと思う。
「で、でもお願いします! せめて週2……いや1でも! いいので! ここにも週1からOKって書いてあるます!」
変な口調になりながら必死に懇願する。頼むその首を縦に振ってくれ、と心の中で叫び続ける。……でも、降谷さんは相変わらず難しい顔だ。
こうなればもう我慢勝負に持ち込むしかない。じいっと、整いすぎたその顔を見つめる。大きな瞳に必死こいている私が映っているのは、この際気にしない。
どうにか私は自立しなければならないのだ。また丸め込まれるわけにはいかない。一生この人に頼りながら生きてはいたくない。そんな迷惑はかけたくは───ない、のだ。
しばしの沈黙の後。
はあ、と小さなため息。
「わかった」
「やたっ!」
「ただし、条件がある。
週1から始めること。体調が優れない時は必ず休むこと。シフトは僕に共有すること。……いいな?」
じと、とグレーブルーの瞳に睨まれる。そんなんわかってますよへっへっへと頷きながら、内心ガッツポーズを繰り返していた。
体調面については、最近悪くはないものの、やはり崩すと私だけじゃなく降谷さんにまで迷惑をかけてしまうからだろう。
と、いうわけで。
この条件の上、私は自立への一歩を踏み出した───
───はずだった、のだが。
スマホアプリの地図と宛先を何度も見返す。先程まではチラシのポスティングばかりだったが、郵便物というかダイレクトメールというか、なんと言うか……これ何?
小包をいくつも抱え、
「……帝丹、高校」
降谷さんのおかげで、この世界で腹括って生きていこうとした私の間違いだったのだろうか。ぜんぜんわからん。わからんことがわからん。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2023年3月6日 21時