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老夫婦を見習うように、桜の下の忘れ去られたようなベンチに腰かける。日に当たって温まったベンチのせいで、余計に気が緩む。つい、目をつむって暖かい風を味わってしまう。

「上着、着てこなくてよかったな」

「───あ、はい! そ、そうですね! ほんと、今日、あったかくて……」

 まずい、気が緩む。
 ちなみに上着というのは私のいつものパーカーだ。ボアのついているあれは暑いだろうと、でも肌寒いかもしれないと半ば無理やりにカーディガンを貸してくれた。私も女性としては大柄なほうだが、この人の服だと結構なオーバーサイズになる。……ちょっと良い匂いがしたのは柔軟剤のはず。

 なんとなく無言のまま、二人して桜を見上げた。ちょっとだけ隣を盗み見れば───なんか、ちょっと、正直話づらい。
 いつも話題にはちょっと困っているし、自然な会話ができているかと聞かれればそうでもない。けれどこんな時は───降谷さんがこんな表情をする時は、余計に何を話していいかわからなくなる。

 私の首の突っ込む場所ではない。この人が無理に私のことを聞いてこないのだから、私だって無理に聞くわけにはいかない。

 この関係は、少し歪だ。
 先生は、彼のことが知りたいならいつでも話すと言ってくれた。でも、それは多分……あんまり良くないような気がして。

 お互いのことをよく知らないままに、こうやって日々を過ごしている。
 ───無論、私は知っている。全てではないけれど。私が知っていることを、この人は知らない。それがとても降谷さんに対して失礼なことだと分かっていても、私は多分、ずっと私のことを話せないままでいる。

 この関係を、壊したくないのもあった。
 歪なのも、薄氷の上を歩いているようなものなのも、分かってる。でも、でもずっと、このままでいられれば、と思う。

 何も。
 何も変わらないまま、ずっと───

「……、A?」

「えっ!? はいなんでしょう!」

 と、名前を呼ばれているのに気付かずに素っ頓狂な声をあげてしまった。それに笑いながら、持ってきた袋を見えるように持ち上げた。

「ほら、そろそろ食べるか」

 緑、白、赤の三色団子だ。ここに来る途中にスーパーで買った。それから、暖かいお茶。

「……ん〜」

 花より団子とはまさにこのこと。甘味、お茶、最高だ。でもメーカーの努力には申し訳ないが、降谷さんの淹れる茶の方がうまいな、と思った。

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作者名:名無しさん | 作成日時:2023年3月6日 21時

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