獣 ページ7
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許さない許さない。
返せ返せ返せ返せ。
大事な人が、愛する人達が倒れている。
「いつか戦争のない世界にするから」
そう言って、昨夜まで俺の頭を優しく撫でてくれた人。
俺を愛してくれた人。
狩りを終えた俺達を出迎えたのは、静かな夜を引き裂いた銃声だった。
荒野の一軒家である彼らの屋敷から、それは聞こえた。
一発ではない。
悲鳴を上げているかのように轟き渡る息苦しいほどのたくさんの銃声。
きっとほんの数十秒。
でも、俺達の心を掻き乱し、混乱と恐怖に陥れるには充分な数十秒。
だって、あの人達は武器を持つことを拒み、ここにいる。
金縛りにあったように動けない俺達に気づかず、屋敷から出てきたヤツらは笑い、勝利の声を上げながらジープに乗り込み去って行った。
家に戻ると、この緑の屋敷にそぐわない赤い絨毯の上に彼らは倒れていた。
怒りで全身の毛が逆立つ。脳が沸騰する。
なんでだなんでだなんでだ。
返せ返せ返せ返せ。
どうしたらあの人を取り戻せる?
あの人の手元に本が落ちていた。
たまに本を読んでは物思いに耽っていた人。
こんな時にそんな記憶が蘇る。
「やーま、何読んでるの?」
「ん?童話。も、どれも狼が見事に悪役なんだよなぁ。」
「あー、しかも大抵最後はやっつけられちゃうしね〜。酷いよね〜。」
そう言いながら、いつも番いのようにあの人のそばに寄り添っている彼が俺の頭をグリグリと撫でた。
「でもさ、裕翔、知ってる?赤頭巾てさ、グリムより前の童話だと、お婆さんを食べてお婆さんの姿になった狼が、赤ずきんも食べたところでお話はお終いなんだよ?」
「えっ?食べられてお終い?」
「そ、オトコは狼、気をつけなってさ。」
すると突然「がおーーっ」と言いながら、彼は巫山戯てあの人をソファーに押し倒した。
あの人は、そんな彼を軽く睨みつけながら
「ゆーとの目はなんでそんなデッカいの?」
「やまの可愛い表情を見逃さないためだよ!」
「ゆーとの手はなんでそんなデッカいの?」
「やまをたっくさん触るためだよ!」
「じゃ、ゆーとのココはなんでこんなデッカくなってんのかなっ?」
「わっ?!そ、そりゃあ、もちろん……やまは、こんな狼、嫌い?」
「…………狼は……嫌いじゃない」
「がおーっ♡」
……それはそれは、そばで見てて思わず毛玉を吐き出すくらい幸せそうだった。
そう、幸せだったんだ。
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はなこ(プロフ) - しろくまさん» ワンシチュかっけぇ!と挑戦してみたら結果ドタバタという汗 しろくまさんのような大御所様に読んで頂けてこちらこそ幸せです!ありがとうございます! (2023年3月7日 21時) (レス) id: c2e437d80c (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 久々の「はなこ」節に腹を抱えて笑いました!はなこ様のお話をまた読むことができて幸せです!ありがとうございました! (2023年3月7日 19時) (レス) id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
はなこ(プロフ) - めめめさん» めめめさん、ご無沙汰しております汗 なんて素敵な褒め言葉!こちらこそコメントありがとうございます!! (2023年3月5日 0時) (レス) id: c2e437d80c (このIDを非表示/違反報告)
めめめ(プロフ) - うわーーー!はなこさま新作嬉しゅうございます!!相変わらずキレていらっしゃる!!ありがとうございます (2023年3月5日 0時) (レス) @page22 id: 1ec0dcf065 (このIDを非表示/違反報告)
はなこ(プロフ) - ももさん» ももさん、いらっしゃいませ!そうなんです、賊の顔を見た時の鴨さんのお顔が一瞬そう見えたんですよ…(妄想が酷い)感想ありがとうございました!! (2021年11月9日 17時) (レス) id: c2e437d80c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はなこ | 作成日時:2019年9月24日 1時