不滅の愛を【煉獄杏寿郎】

28.慈雨 ページ28

柔らかな雨の中

　電車がホームに入ってくる。


「狭霧駅ですか。私の降りるひとつ前の駅です。」


「そうか。」


　あたりは暗くなってきて


　電車の灯りが先の道を照らし


　雨が暗い中光を浴びる。


　先程のことがあったからか、


　電車に乗るのが…



　少し怖い。




　私は震える手を抑えるように


　お腹のあたりで両手を強く握る。


　すると、ぐいっと腕を引かれ、


　冨岡先生のそばに引き寄せられる。



「…安心しろ。


　Aの降りる駅まで一緒にいる。」



「そんな…悪いですよ。」



「震えている女を置いていけるほど

　俺も馬鹿じゃない。」



　胸が熱くなって、私の視界は涙でぼやける。


「…ありがとうございます。」



「礼などいらない。

　いつも世話になっているからな。」



　彼はまっすぐ前を見たまま

　淡々と言の葉を紡ぐ。


　私は杏寿郎さんに連絡をしていないことを思い出し、

　バッグから慌てて携帯を取り出す。



　不在着信2件



　遅くなった上に連絡できていなかったから

　心配しているよね。



　私は、

　"遅くなってごめんなさい。今電車に乗ります。

　後10分くらいで最寄駅に着きます。"


　と、メッセージを打ち込んで送信した。



　電車の扉が開き、

　私は冨岡先生と一緒に乗り込む。


　ドアの近くに立つと、

　すぐ目の前には冨岡先生が私を覆うように立っている。


　優しい人なんだ。


　電車は私たちを乗せてゆっくりと走り始めた。



　携帯の画面が光り、私はおもむろに目を向ける。



　"分かった。駅で待っている。

　改札口にいるから慌てずにおいで。"


　杏寿郎さんからだ。



　今すぐに


　会いたくて


　会いたくて


　画面の文字がぼやける。



　すると、おもむろに指で涙を拭われた。


　表情を変えない冨岡先生は


　そのまま視線を外の景色へと移す。








「まもなく陽光駅〜陽光駅〜」




　車掌さんのアナウンスで、私は冨岡先生に声をかける。



「ここで降ります。」


「分かった。」



　電車は次第にスピードを落として


　駅のホームにとまる。

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