そのごじゅうきゅう ページ15
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薬を飲み、少しだけ休ませてもらった私は、だいぶ体も軽くなり、何とか一日を乗りきった。
心配させてしまった音駒のみなさんに謝って、猫又先生にもちゃんと謝罪とお礼をし、黒尾先輩にもジャージを返してお礼を言った。
薬のおかげで、夜には昼よりもマシになっていて、きっとこのメンバーでは最後であろう、自主練にも最後まで付き合った。
私はもうすっかり見慣れた四人のその光景に、少しの寂しさを覚えた。
もう、終わりで。
きっと、こうして四人が集まって練習することを見ることは無いのだ。
そんなことを私が考えているなんて露知らず、木兎先輩はハイテンションに笑って、赤葦先輩はそれを宥めて、黒尾先輩は全力で月島を煽って、月島が冷たい目を返す、そんないつも通りの光景が繰り広げられた。
ダメだ、体調の悪い女の子の日は、感傷的になってしまう。
ここに来ているのは、私が寂しさを感じるためでも、楽しむためでもなく、みんなが強くなるためなのだから。
そんなことを考えながら、私は就寝時間の少し前に、自動販売機へと向かっていた。
階段をおり、角を曲がってエントランスホールまで来ると、暗い中では眩しすぎる自動販売機の明かりに照らされる、人影が見えた。
影の主は私の足音に気づいたのか、こちらに顔を向ける。
「あれ、Aちゃん」
「…黒尾先輩だったんですか」
名前を呼んだ声で、ようやく黒尾先輩だと分かった。
先輩のトサカのような髪の印象が強すぎて、お風呂上がりの髪がペタっとした黒尾先輩は見慣れない。
私が近くに寄れば、先輩は不思議そうに私を見る。
「こんな時間にどうした?」
「あったかい飲み物を買いに来ました」
そっか、と言いながら先輩はピッとボタンを押す。
すぐさまガタンッと音がして、受け取り口からブドウ味の炭酸のジュースを手に取った。
「じゃ、先輩が奢ってやりましょう」
「大丈夫です、悪いので」
有無も言わさずお金を入れようとするのを阻止していれば、先輩はあ、と呟いた。
「当たった」
「何がですか」
「これこれ」
そう指を指す方を見れば、金額が表示されるところに七が四つ並んでいる。
「え、初めてなんだけど」
「私も初めて見ました」
半ば都市伝説ではないか、なんて思っていた自動販売機の当たりを実際に目の当たりにした私たちは、顔を見合わせる。
そして、してやったりとでも言いたげに、先輩の口は弧を描いた。
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mifulu(プロフ) - 宇宙。さん» ありがとうございます! そう言って頂けてとても嬉しいです! 他のハイキューキャラの小説もいつか作ろうと思っているので、また読んで頂けると嬉しいです(´˘`*) (2020年6月15日 7時) (レス) id: 78d3fcb26b (このIDを非表示/違反報告)
宇宙。(プロフ) - あの!!最高でした!!黒尾先輩がめっちゃ黒尾でした(?)推しの最高な物語読めて嬉しいです、ありがとうございました。もしよろしければツッキーとか影山とか、あかーしとか、書いてくれると嬉しいです! (2020年6月15日 3時) (レス) id: 68b0101532 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 伽音さん» ありがとうございます! そのお言葉で、私もニヤけてしまいます笑 これからも楽しんで貰えるような作品をお届け出来るよう、頑張ります。 (2020年6月4日 22時) (レス) id: 856ce52b7f (このIDを非表示/違反報告)
伽音(プロフ) - 面白くて、ニヤケながら86話を一日で読んでしまいました!良い小説ですね!お疲れ様です!これからも応援してます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: b1d06a9201 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - ルだ子さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます! 楽しんで頂けたようで幸いです(´˘`*) まだ制作中ですので、もう少しお待ち下さい。 (2020年6月1日 21時) (レス) id: 856ce52b7f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mifulu | 作成日時:2020年4月26日 18時