そのじゅうに ページ12
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「どうかしました?」
彼女の手元を見て黙りこくった俺に、不思議そうに眉をひそめ、そう聞いてくる。
その言葉に、
「…いや、これ」
と、彼女のバインダーに挟まれた紙を指さした。
そこには、背番号と名前、体調や怪我の有無が書かれてあった。
「あぁ、少しでも把握しておいた方がいいと思って。結構暑いので、ドリンク渡す時に聞いてるんです」
彼女は普通でしょ?とでも言いたげに、真顔のままで言い放つ。
マネージャーなんていなかったからそれが普通か分からないが、思わず感動してしまった。
「黒尾先輩は大丈夫ですか? 体調とか怪我とか」
「…ん。全然大丈夫、ありがとう」
「いえ、大丈夫、です」
ちょっとだけ目を見開いて、驚いたように俺を見ると、何故かぱっと目線を下に向ける。
「どうした?」
「別に、なんでもないです」
何だか少し心配になって覗き込めば、顔を前に向けて、いつものようにスっとした顔で首を横に振る。
「そ?」
「はい」
俺たちは次、審判をするチームのいるコートへと足を向ける。
「…ねぇ、Aちゃん」
「何ですか?」
「俺の名前、鉄朗って言うんだけど」
「知ってますが」
「鉄朗って呼んでくれな、」
「お断りします」
光の速度で食い気味に断られる。
「えぇー!」
「えぇーじゃないですよ」
「リエーフのことは呼ぶんだろ? 黒尾サンのこともそう呼んでくれていいんだけど?」
「調子乗りそうなので、やめておきます」
それでもなお食いついて、何度も言うが、連絡先の時のようにバッサリ断られる。
だが、そのきっぱりバッサリなところが彼女らしくて、俺は思わず笑ってしまう。
そんな時、バサッと足元で何か音がした。
何かと思って見てみれば、『バレーボールノート』とかかれたピンク色の可愛いノートが落ちている。
「Aちゃん、このノート違う?」
拾って、見せてみれば、
「あっ、私のです。ありがとうございます」
と、少し恥ずかしそうにそれを受け取った。
初めて見たその表情に、ざわざわと何か変な感じが心の奥に残る。
妙な感覚をふるふると頭を振って追い出して、可愛らしいノートを見つめる。
「そう言えば、バレー教えるって言ってたよな?」
「えっ…あぁ、でもLINEだと面倒ってお断りして、」
「直接だったら迷惑じゃねぇよな?」
「直接?」
戸惑いを隠せない彼女に少しだけ優越感を抱きつつ、ちょいちょいっと手招きした。
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mifulu(プロフ) - るさん» コメントありがとうございます! そう言っていただけて嬉しいです。 (2020年4月18日 12時) (レス) id: ab7a8cd136 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 星猫さん» コメントありがとうございます! ここではなんですので、良かったらボードなどで話しかけて下さると嬉しいです。 (2020年4月18日 12時) (レス) id: ab7a8cd136 (このIDを非表示/違反報告)
る - すごく面白いです、早く続きが読みたくなります (2020年4月18日 9時) (レス) id: 3219097ab0 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 知ってるアニメは何ですか? (2020年4月13日 18時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mifulu | 作成日時:2020年4月6日 20時