＊ ページ5
＊
「そんで、どおなん？大倉とは仲ようしてる？」
安田くんはやわらかい表情でちいさく首を傾げた。
「うん。」
私はお皿に落ちたタルタルソースをお箸ですくって、チキンに乗っけながら頷く。
大倉くんは今日は午前中は外に出てるって言ってた気がする。今日の朝は別々だった。
「ふたりって喧嘩とかするん？あんま想像つかんけど。」
「え、するよ。こないだもしたし。」
「えーなにで喧嘩するん？」
気になるわっていたずらな表情を見せた安田くんに、最近の喧嘩を思い出す私。
私と大倉くんは喧嘩をたまにする。一番最近なら先週末の買い物だ。
先週の月曜日。ちょうど大倉くんと一緒にいるときに亮から連絡があった。赤ちゃんが生まれたって。女の子で、亮の赤ちゃんの頃――亮の赤ちゃんの頃なんて知らないけど、多分はっきりした顔立ちなんだと思う。――にそっくりらしい。
だから、亜紗美ちゃんと赤ちゃんが落ち着いたら、ちっちゃいうちに会いにきてやって、電話で言われた。
「亮ちゃんって、ほんまにAちゃんが自分のこと好きやったって気づいてないんかな。」
電話を切って早々、大倉くんは呟くみたいにそう言った。
私は夕飯に使った食器を洗っていて、大倉くんは換気扇を回して煙草を吸っている。
「気づいてないと思うけど。」
「もし今もAちゃんが亮ちゃんのこと好きやったら、こんなん地獄やん。」
煙草の煙を吐きながら無邪気に笑った大倉くんに釣られて私もはは、と笑ったけど、想像するだけでおぞましい。
結婚で充分なダメージを食らっていたところに、かわいい子供が生まれて、しあわせな家族三人に会いに行く状況。しかも、ひとりきりで。
思わず身震いしそうになっていたら、「なに？想像してんの？顔やばいで。」って大倉くんはさぞ愉しそうに笑っている。
大倉くんは相変わらず不幸だったときの私をいじるのが好きで、ほとんど拗ねたみたいに適当にあしらった。
そしたら、背後から腰にやわく腕を回されて、あごを私の肩に乗せると顔を覗き込むみたいに、
「俺がおってほんまによかったな？」
なんて恩着せがましいことを言ってくるから、大倉くんはほんとうにずるい。
でも結局、そうなのだ。
私の生活の中で「大倉くんがいてよかった」と思わざるを得ないシーンはしょっちゅうやってくる。
＊
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1722人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼 夢見子(プロフ) - 璃実さん» 璃実様、お返事が遅くなってしまいごめんなさい…！ただのいちファンとしての勝手な主観ですが、大倉くんの強さややさしさを描けたらなと思いながら書いていたお話なので、そう言っていただけてほんとうに嬉しいです。最後まで読んでくださりありがとうございました^^ (2023年3月4日 22時) (
レス) id: 4e57835bcc (このIDを非表示/違反報告)
璃実(プロフ) - 沢山の人から生真面と言われてきたので主人公とどこか重ねて読んでいました。私がそうであってほしいと思う大倉くんと、きっとほんの一部ではありますが私が見てきた大倉くんを形にしたのもがまさに夢見子さんの描く大倉くんでした。素敵なお話をありがとうございます。 (2023年2月19日 23時) (レス) @page23 id: 096fac2c00 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。そのようなことを言っていただけて私もしあわせです……少しでも楽しく読んでいただけていたらそれだけでもうとても嬉しいです^^ありがとうございました…！ (2022年3月13日 17時) (レス) id: caebde5a3d (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 美波さん» 美波様、あたたかいコメントいただけてとてもうれしいです…（涙）お話を書くのは自己満足のためとは言え、読んでくださる方がいてこそ最後まで書くことができたと思っています。こちらこそ心から感謝です……本当にありがとうございました！ (2022年3月13日 17時) (レス) id: caebde5a3d (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - 完結おめでとうございます。ほんっとうに物語に引き込まれっぱなしで、読んでいる時間いつだってとても幸せでした…！素敵な作品を、ありがとうございました。 (2022年3月9日 22時) (レス) @page23 id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2019年7月16日 0時
