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Aちゃんの部屋に圧力鍋だけを取りにいくつもりで、なのになぜか、水切りかごに伏せてあったグラスに麦茶を注いで飲んでいた。
喉の音を立ててよく冷えた麦茶を飲みながら、「圧力鍋忘れたから取りにきてる」とAちゃんにメッセージを送った。それから、「麦茶もらうわ」とも。
すぐに返事がこないことをわかっていながらも、しばらく液晶をじっと見つめてしまう。
俺の家と間取りも大きさもほとんど変わらないのに、色も空気もにおいもまるで違うこの部屋。
それでも、部屋の至るところにこっそりと溶け込む自分の気配にひどく満たされるような気持ちになる。
こっそりと溶け込む自分の気配。
たとえばそれは、椅子の背もたれにかかっているブランケット――もともとは俺の部屋にあったもので、でもいつからここにあるかもわからない――だったり、俺が煙草を吸いにベランダに出るときに使うサンダルだったり、それから――…
手の中の携帯が音を立てて、明かりの点いたスクリーンを見るとAちゃんからメッセージが入ってきていた。
『了解』
『今二次会の会場向かってるところ』
俺はすかさず、「写真は？」と素早く返信を打つ。ほどなくして既読のしるしがついて、それからすこん、と小気味いい音とともに画像が送られてきた。
でかでかと写るいくつもの後頭部の向こうにいるちいさくてよく見えない新郎新婦の写真。
俺はその写真を見てつい眉をひそめて笑ってしまう。このなにひとつとして、正解じゃない写真に。
欲しかったのは知らない新郎新婦の写真ではないし、それにこの写真も信じられないくらい撮影が下手くそで、つくづくAちゃんは不器用やなと思う。
つくづく、そういうところが愛おしいとも思う。
『なんでよ』
『Aちゃんの写真』
きっと今頃、「えー」と心の中でちいさく声を漏らし苦い顔して写真を選んでるんだろう。
なかなか動かないスクリーンに頬をゆるめていると、もう一枚、写真が送られてきた。
それは、全部で十数人が花嫁花婿の周りを囲んで写っている集合写真で一瞬Aちゃんがどこにいるかわからへんかった。
Aちゃんらしい。
俺はくつくつと笑い出しそうになりながらやっと見つけたその姿を拡大し、大いに満足した。
ちいさくてはっきりは見えないけど、俺が選んだ水色は思った通り、よく似合ってたから。
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蒼 夢見子(プロフ) - 璃実さん» 璃実様、お返事が遅くなってしまいごめんなさい…！ただのいちファンとしての勝手な主観ですが、大倉くんの強さややさしさを描けたらなと思いながら書いていたお話なので、そう言っていただけてほんとうに嬉しいです。最後まで読んでくださりありがとうございました^^ (2023年3月4日 22時) (
レス) id: 4e57835bcc (このIDを非表示/違反報告)
璃実(プロフ) - 沢山の人から生真面と言われてきたので主人公とどこか重ねて読んでいました。私がそうであってほしいと思う大倉くんと、きっとほんの一部ではありますが私が見てきた大倉くんを形にしたのもがまさに夢見子さんの描く大倉くんでした。素敵なお話をありがとうございます。 (2023年2月19日 23時) (レス) @page23 id: 096fac2c00 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。そのようなことを言っていただけて私もしあわせです……少しでも楽しく読んでいただけていたらそれだけでもうとても嬉しいです^^ありがとうございました…！ (2022年3月13日 17時) (レス) id: caebde5a3d (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 美波さん» 美波様、あたたかいコメントいただけてとてもうれしいです…（涙）お話を書くのは自己満足のためとは言え、読んでくださる方がいてこそ最後まで書くことができたと思っています。こちらこそ心から感謝です……本当にありがとうございました！ (2022年3月13日 17時) (レス) id: caebde5a3d (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - 完結おめでとうございます。ほんっとうに物語に引き込まれっぱなしで、読んでいる時間いつだってとても幸せでした…！素敵な作品を、ありがとうございました。 (2022年3月9日 22時) (レス) @page23 id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2019年7月16日 0時
