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「……そぉやったんや。」
私が話し終えて、もう充分に食べられそうなもんじゃを再びつつき始めると、安田くんはうわ言みたいにそう言った。
「んでも、確かに大倉って傍若無人なとこあるもんなぁ。そこが大倉のええとこでもあるとは思うんやど。」
眉毛を下げちいさく微笑む安田くん。
私もそう思う。なんて、言いたかったけど言えなかった。心からそう思うから、言えなかった。
「…久美ちゃんと大倉くんが上手くいったら、ちゃんと謝ろうと思ってる。」
ぼんやりと考えていたこと。
私の恋愛感情に関係なく、さんざん助けてくれたひとに向かって酷いことを言ってしまったことは確かで。それは、いずれ謝らなければいけない。良識ある大人でいるためには。
だけどそれは今じゃない。
今謝ってしまったら、なにもかも水の泡になってフリダシに戻ってしまうから。
「あのふたりが上手くいく、が前提なん?」
安田くんはもんじゃ用のちいさなヘラをぱくりと咥えてながら、首を傾げる。
私はその問いに、刹那に息ができなくなってしまった。無意識に、亮の結婚式で美しい姿をした亮と亜紗美ちゃんに練習した笑顔で「おめでとう」と言った自分を思い出した。
「…そうなったらいいなと思うし、そうなる気がする。」
もんじゃ焼きの表面に溶ける淡い黄色のチーズをじっと見ながら、頷いた。
不自然な言い方だったかもしれない。私はまた、泣きそうな顔をしているのかもしれない。嫌だな。とても、嫌だ。
「どーなんかなぁ。大倉もそっちのことんなると、何考えてんのかイマイチわからへんからなー。」
思案顔をしてみせた安田くんは、空き皿をさげにきた店員に「あ、ハイボールひとつお願いしますー」と頼んでから私のほうを見て「飲み物、たのむ?」と訊いてきた。
「じゃあ、私も同じものを。」
「ハイボールおふたつですね。少々お待ちください!」と言って去っていった店員に軽く会釈をする安田くん。
口に入れたもんじゃ焼きはすこし、塩辛く感じたけど、でも向かいで食べている安田くんが「んー、チーズもおいしいなあ!」と目を細めているから、そんなこともないように思えた。
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蒼 夢見子(プロフ) - らてさん» らて様、初めまして。そう言っていただけてとてもうれしいです…!ありがとうございます!以前に比べると書くスピードが遅く滞りがちですが新しいものも完結できるよう頑張ります…!! (2021年2月8日 20時) (レス) id: 3ff9e3c936 (このIDを非表示/違反報告)
らて(プロフ) - はじめまして。蒼 夢見子さんの書く文章、表現、言い回し、描写がとても好きです!素敵なお話をありがとうございました。新作も楽しみにしております! (2021年1月26日 13時) (レス) id: d5862e85a0 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - まゆ☆まゆさん» まゆ☆まゆ様、読み返していただけるなんてありがたすぎます…!ありがとうございます(涙)たいしたものではないのですがすこしずつ書き留めていてきちんと清書できたら公開しようかなと思っています。いつになるかわかりませんが気長にお待ちいただけると嬉しいです! (2019年4月9日 20時) (レス) id: 5ab3a36ba5 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ☆まゆ(プロフ) - 久しぶりにキュンキュンしたくて読み返しました。何度読んでも素敵です!続きが下書き中になっていたのですがまだ続きがあるんですか?もしあるのならばすごく楽しみです(≧∇≦) (2019年4月9日 18時) (レス) id: 8a01f69d5a (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - ちいさん» ちい様、きゅんきゅんしていただけてとっても嬉しいです…!いつになるかはわかりませんが、私も是非またふたりを描けたらいいなと思っているのでその時には読んでいただけるとありがたいです^^ (2019年2月4日 19時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月5日 23時