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夜の都心はネオンとひとと、それからいろんな音で自分の感じられる術がすべて塞がれるような気がしていた。ずっと。
なにもかもが騒々しくて、それなのになにもわからなくて、あんまり好きではなかった。
自分がいる場所にひとが多ければ多いほどひとりぼっちを感じた。
おおきなスクランブル交差点の向こうにある、商業ビルの壁の電子時計が19時2分を指している。
昨夜は大倉くんの家に泊まり(本当に私たちは同じ布団で眠っただけだ。一度起きてからは私はあまり眠れなかったけれど。)、朝、今日の夜ご飯は外で一緒に食べる約束をした。
私は職場から数駅ほど先の駅前で、営業先からここに来るはずの大倉くん待っていて、
よくわからないけれど、すこしだけ、緊張をしていた。
こんなに明るいと、月を見失ってしまいそうな気がする。
そんなことを考えながら私の前を行き来するひとたちを眺める。私なんて見えてないみたいにどこかに向かって忙しなく歩いていくひとたち。
その中からひとりだけ、私をちゃんと見て、私のほうだけに向かってくる、ひと。
びっくりするくらい、凛として見えた。
凛としていて、美しかった。
「待った?」
私の目の前で足を止めた大倉くんは「お疲れ」といつもと変わらないような挨拶をくれた。
「ううん、そんなに。」
私は首を振り、流れるひとのほうになんとなく視線を向けた大倉くんの横顔を見上げる。「月曜やのに、ひと多いな。」と呟く声が聞こえた。
「何食う?食いたいもんある?」
大倉くんは携帯を取り出しながらやさしい口調でそう言ったから、私はなんだかその大倉くんらしくなさに返事をするのを忘れて画面の明かりに照らされた彼の顔をじっと見てしまった。
「え…なに?」
不思議そうに顔を上げた大倉くんに私はちいさく笑う。
「…大倉くん、そういうの訊くんだね。」
「…どういうこと?」
大倉くんは眉をひそめる。
「いや、いいの。なんでもない。」
私は笑ってごまかす。
今まで大倉くんは行き先も行く時間も食べるものも最初から決めてあって、私はそれについて行っていただけだったから、意見を求められることが新鮮でそれがなんだかすこし可笑しい。
なんでもいいよって言おうとして大倉くんを見上げたら、随分と澄ました顔で私を見ていて、
「恋人はめっちゃ甘やかしたいやん。」
ほんの一瞬親指で私の頰をやさしくこすってから、にやりと笑った。
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蒼 夢見子(プロフ) - らてさん» らて様、初めまして。そう言っていただけてとてもうれしいです…!ありがとうございます!以前に比べると書くスピードが遅く滞りがちですが新しいものも完結できるよう頑張ります…!! (2021年2月8日 20時) (レス) id: 3ff9e3c936 (このIDを非表示/違反報告)
らて(プロフ) - はじめまして。蒼 夢見子さんの書く文章、表現、言い回し、描写がとても好きです!素敵なお話をありがとうございました。新作も楽しみにしております! (2021年1月26日 13時) (レス) id: d5862e85a0 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - まゆ☆まゆさん» まゆ☆まゆ様、読み返していただけるなんてありがたすぎます…!ありがとうございます(涙)たいしたものではないのですがすこしずつ書き留めていてきちんと清書できたら公開しようかなと思っています。いつになるかわかりませんが気長にお待ちいただけると嬉しいです! (2019年4月9日 20時) (レス) id: 5ab3a36ba5 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ☆まゆ(プロフ) - 久しぶりにキュンキュンしたくて読み返しました。何度読んでも素敵です!続きが下書き中になっていたのですがまだ続きがあるんですか?もしあるのならばすごく楽しみです(≧∇≦) (2019年4月9日 18時) (レス) id: 8a01f69d5a (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - ちいさん» ちい様、きゅんきゅんしていただけてとっても嬉しいです…!いつになるかはわかりませんが、私も是非またふたりを描けたらいいなと思っているのでその時には読んでいただけるとありがたいです^^ (2019年2月4日 19時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月5日 23時