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「救われたひとりぼっち」 ページ37









「もう。そんな顔、しないでください。」


久美ちゃんは静かにそう言うと、ティーカップをソーサーから持ち上げてひと口飲み、そして眉毛をさげて口角をわずかにあげた。



「大倉さんに聞いたかもしれないですけど…私、昨日大倉さんに会ってもいないし、もう先週とっくにフラれてたんです。」



私は自分がどんな顔をしているのかはわからなかったけど、胸はどうしても痛くなる。

こんな同情のような気持ちは失礼だとわかってはいても、でも、どうしようもないことだった。



「なんとなくわかってて。山田さんが大倉さんのこと好きだってこと。すこし前から。」


伏し目がちにカップを元の場所に、丁寧に戻す久美ちゃん。


「それなのに、山田さん、全然そんなことないって顔するし、私のこと応援してくれるようなこと言うし。」


俯いてしまいそうになった私に「わかってます。」と久美ちゃんは言った。


「……抜け駆けとかそういうのじゃなくて、ずっと私に遠慮してたんですよね?それって、山田さんのやさしさですよね。


…だから私、余計に悔しくて、腹立たしくて。だってそんなの。全然、おかしいじゃないですか。恋愛なんて自己中にならないとしあわせになれないのに、譲ったり遠慮するなんて。」



胃のあたりがぎゅうっと苦しくなる。

久美ちゃんの目はまっすぐだった。不純物なんてなにひとつそこにはない、綺麗で、純粋な目。



「でも…私も自分が虚しくなるだけなのに子供みたいな意地悪なんてするもんじゃなかったって思ってます。ごめんなさい、下らない嘘ついたりして。」



私は何も言えずに、だけど顔を歪めて、何度も首を横にふる。



「……あとそれから…私まだ、未熟なんで、これからしばらく山田さんに理不尽な嫉妬したりそういう醜い感情、どうしても抱いちゃうと思うんです。」



久美ちゃんはちいさく息を吐いてまた、私をじっと見つめた。



「でも、山田さんは自分のこと一番かわいいと思ってください。大倉さんも隣にいて、一番最強だって。」


「…じゃないと私、本当に怒りますから。山田さんのこと、嫌いになります。」


ちいさな女の子のようにわざとっぽく私を睨む久美ちゃんに私は泣きそうになってしまう。



救われている。と思う。

私はいろんなひとに救われているのだ。



やっと手を伸ばしたティーカップに注がれたダージリンはすこし冷めていたけれどあたたかく喉を通っていった。






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蒼 夢見子(プロフ) - らてさん» らて様、初めまして。そう言っていただけてとてもうれしいです…!ありがとうございます!以前に比べると書くスピードが遅く滞りがちですが新しいものも完結できるよう頑張ります…!! (2021年2月8日 20時) (レス) id: 3ff9e3c936 (このIDを非表示/違反報告)
らて(プロフ) - はじめまして。蒼 夢見子さんの書く文章、表現、言い回し、描写がとても好きです!素敵なお話をありがとうございました。新作も楽しみにしております! (2021年1月26日 13時) (レス) id: d5862e85a0 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - まゆ☆まゆさん» まゆ☆まゆ様、読み返していただけるなんてありがたすぎます…!ありがとうございます(涙)たいしたものではないのですがすこしずつ書き留めていてきちんと清書できたら公開しようかなと思っています。いつになるかわかりませんが気長にお待ちいただけると嬉しいです! (2019年4月9日 20時) (レス) id: 5ab3a36ba5 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ☆まゆ(プロフ) - 久しぶりにキュンキュンしたくて読み返しました。何度読んでも素敵です!続きが下書き中になっていたのですがまだ続きがあるんですか?もしあるのならばすごく楽しみです(≧∇≦) (2019年4月9日 18時) (レス) id: 8a01f69d5a (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - ちいさん» ちい様、きゅんきゅんしていただけてとっても嬉しいです…!いつになるかはわかりませんが、私も是非またふたりを描けたらいいなと思っているのでその時には読んでいただけるとありがたいです^^ (2019年2月4日 19時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月5日 23時

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