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5時20分、玄関のチャイムが軽やかな音を立てた。
「会社から家まで20で着く」と大倉くんは言ってたけど、ほんと、きっかり20分。
定時で帰れるなんていいな。思えば入社してから今まで、定時で帰ったのは昨日が初めてかもしれない。
私はもたれさせていた体を起こして、ハンドバッグを持って玄関へ向かう。
スニーカーをつっかけてドアを開けると今朝見たのと同じ姿の大倉くんがいた。
「顔色、変わらへんな。」
私の顔を見てひとことそう言うと「今から行けば最後の診察には間に合うやろ」と歩き出した。
とろとろ彼の後を追って、エレベーターの前で立ち止まる。地面がぐらぐらと揺れ動いているみたい。その場に座り込みたくなるのを我慢して両足で立つ。
大倉くんから電話があった後、起き上がって外に出る用意をするまでにだいぶ時間がかかってしまった。
予想以上に体がずっしりと重くだるくて服をひとつ着替えるのにも顔を洗うのにもいつもの倍以上のスピードでしか動けなかった。
今まで体調を崩したことなんてほとんどなかったのに。いろいろとちいさな無理を重ねているうちにすっかり体も心も擦り減ってしまっていたんだろうか。
エレベーターが来てドアが開く音がしても、すぐに動けずにいた私に「動ける?」と大倉くんが顔をのぞいてきた。
「しんどかったら、肩つかまってもええけど。」
たぶん、普通だったら意地でも自立して歩いたと思う。
だけど、今の私はほんのちいさなプライドさえなくしてしまうほど参ってしまっていた。その時初めて、そのことに気づいた。
「……じゃあ…すみません。」
ちいさな声でそう言うと、背の高い大倉くんの肩に手を置いて体重を預けるようにして歩いてエレベーターに乗った。
大倉くんから香る、甘い柔軟剤の匂いとほのかな煙草の匂い。
それから特に会話もなく、大倉くんは私を駐車場に停めてあった紺色の車の助手席に乗せた。座れたことにすこしほっとする。
「ねえ…」
動き出した車の中にはちいさな音でラジオが流れてた。大倉くんは返事をする代わりに一度私の方に顔を向ける。
「…亮に、何か」
「なんも言うてへんよ。ただマンション一緒やったってことと今日出先で家の鍵失くして管理人の電話番号知りたいからAちゃんの連絡先教えてほしいってことしか言うてへん。」
「…作り話、得意だね。」
皮肉を込めて言ったつもりなのに、
「まあな。」
大倉くんはにやりと笑った。
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蒼 夢見子(プロフ) - すぅさん» すぅ様、初めまして。コメントありがとうございます^^私には勿体無くも有難いお言葉いただけてとても嬉しいです(涙)これからも楽しんでいただけるものを書けるよう頑張ります! (2018年12月3日 11時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
すぅ(プロフ) - こんばんは。今まで読んできた小説のなかで一番素敵な物語です。これからも応援しています (2018年12月3日 0時) (レス) id: 6e6892a55b (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、こんにちは。こちらにもコメントいただけてとっても嬉しいです...(涙)この間とはすこし違ったいたずらで甘い大倉くんを書きたいなーと思い書き始めました。そう言っていただけると俄然執筆への意欲が湧いてきます!ありがとうございます^^ (2018年11月21日 10時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - こんにちは!こちらのお話にもコメント失礼します。優しいんだか冷たいんだか分からない大倉くんとっても魅力的です好きです(;_;)ヒロインちゃんが幸せになれることを密かに願いながら応援しております、、、! (2018年11月21日 0時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年11月13日 22時