( 満月の夜は、目眩のするような甘いキスを。 )

「気まぐれな会合」 ページ29

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気づけばホーリーが帰ってからほとんど1ヶ月が経っている。季節はすっかり秋だった。

しばらく残暑は続いていたけれど、おとといから温度が下がって、夏の湿気た空気もほとんどなくなっていた。



たったふた晩一緒に過ごしただけなのにホーリーは私に懐いてくれて、帰っていく時の名残惜しそうに私を見上げる姿はとても愛おしかった。

亮と亜紗美ちゃんに会えて尻尾をぶんぶんと振りながらも、私を見て寂しがるホーリーの姿を見た亮が「今度うち遊びにきいや」って、そう言った。

私は笑顔で頷いたけど、ふたりの家に遊びに行けるくらいの勇気はいつになったら持てるのだろう。考えるだけで気が遠くなる。



仕事は相変わらず忙しい。


うちの会社は上が古い方針を変えようとしないからどの業務に置いても効率が悪いことだらけだ。

おまけに先月の終わりに後輩が仕事を辞める辞めないの騒動を周りを巻き込んで起こしたから、教育係の私は主任からくどくどと怒られるはめになり、後輩が無断欠勤している間の彼女の仕事は全部、私がやらなければいけなくなった。

ここのところ家に帰っても仕事の残りをやって、シャワーを浴びて寝るだけ。相変わらず、というよりも以前よりずっと忙しい。目が回りそうだ。



今日もそうして仕事を終えて家に帰ってきたのはちょうど、夜中の零時。

荷物を放るようにベッドの上に置いて、そのまま体ごと倒れこみたい衝動をなんとか抑え、Tシャツとスウェットパンツに着替えてからベッドにどさりと腰を下ろした。


体中の空気をすべて吐き出すみたいなおおきいため息をついてぼんやり部屋を見渡す。相変わらず、つまらない風景。


部屋の片隅に置かれたふくらんだビニール袋が視界に入って私は首をかしげる。

あれは一体、何を入れたものだったか、と立ち上がって袋を覗いて思わず「あ…」って、ちいさく声を漏らした。


中に入っていたのはいつだったか大倉くんが貸してくれたパーカーで。随分前に洗ったきり、袋に入れるだけ入れて忘れていた。

返さなくちゃと思いつつも連絡は全然取っていなかったし、最近は屋上にたそがれに行く時間もなかった。



今日は金曜日だし、久しぶりに屋上へ行って一杯くらいお酒を飲んでから寝ようか。大倉くんがいるかはわからないけど、もしいたら返せばいい。


袋を手に持ったまま冷蔵庫からアルコール度数の低い発泡酒の缶を取り出すといつものようにサンダルをつっかけて家を出た。






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