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「…正解、なあ。」


大倉くんはもう一度、独り言のようにちいさな声で呟いた。

私は大倉くんの横顔を見つめながら手の中にある汗をかきはじめた缶を傾けた。つめたいビールが喉を駆け流れていく。


「子供ん時さ、めっちゃ体弱くてしょっちゅう入院したりして、学校も休みがちやってん。」


ふいに大倉くんが横目で私を見て、目が合うと自嘲気味な笑みを浮かべてから視線を逸らした。


「そんなんやから学校でも軟弱で女みたいやって笑いもんにされて。そん時俺も、毎日のようになんかいいこと起こらへんかなぁて思うてた。大人んなったらもっとしあわせになれるんやろうかって。」


大倉くんの声は穏やかに夏の空気に溶け込んでゆく。


「今はいじめられることなんてないし体もある程度丈夫やし、不自由なことってそんなにあらへんのに、あの頃となんも変わらへんような気がすんねん。

…ただ欲張りなだけかもしれへんけど、なんか、満たされへんのよ。」



私は何故か、泣きそうになっていた。

缶の中のビールからどんどん炭酸が抜けて、ぬるくなっていくのなんてちっとも気にならないくらい、胸の中の感情が溢れ出してどうにもならないような気がした。


なんだって、そうなんだ。


私が決めて私が歩んできた人生なのに、満たされることがなかった。

片想いをしたままでも亮とこれからもずっと友達でいようと決めたのも私。

心が擦り減る思いで必死になって就活をしていたとき今の会社を受けようと決めたのも私。


大人になるにつれて自分で決められることも、できることも増えていったはずなのに、それと比例するように世界が窮屈になって、孤独が深くなっていった。

毎日目が覚めるたびすこしずつ死んでいくような、そんな感じがしていた。


私はいったい、何を守りたいんだろう。

何になりたいんだろう。


そんなこともわからなくなって、ただ満たされないままの自分だけがぽつりと取り残されて。



ぎゅっと唇を結んだまま俯いていたら、突然、こつんと額につめたいものが触れた。

見上げると缶ビールを持った大倉くん手がすぐ目の前にあった。



「次は絶対に負けへんから覚悟しとき。」


「え?」


「ボーリング。次負けた方焼肉奢りな。」


「それ、ちょっといきなり高くない?」


「焼肉ってひとの金で食べたない?」


「…意地汚い。」


「そんな目で見んといてよ。」



夜の時間は淀みなく流れる。

私はまた自然と笑っていた。






「新月、二匹の犬」→←*



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蒼 夢見子(プロフ) - すぅさん» すぅ様、初めまして。コメントありがとうございます^^私には勿体無くも有難いお言葉いただけてとても嬉しいです(涙)これからも楽しんでいただけるものを書けるよう頑張ります! (2018年12月3日 11時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
すぅ(プロフ) - こんばんは。今まで読んできた小説のなかで一番素敵な物語です。これからも応援しています (2018年12月3日 0時) (レス) id: 6e6892a55b (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、こんにちは。こちらにもコメントいただけてとっても嬉しいです...(涙)この間とはすこし違ったいたずらで甘い大倉くんを書きたいなーと思い書き始めました。そう言っていただけると俄然執筆への意欲が湧いてきます!ありがとうございます^^ (2018年11月21日 10時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - こんにちは!こちらのお話にもコメント失礼します。優しいんだか冷たいんだか分からない大倉くんとっても魅力的です好きです(;_;)ヒロインちゃんが幸せになれることを密かに願いながら応援しております、、、! (2018年11月21日 0時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年11月13日 22時

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